本研究は歴史語用論という領域に属しており、過去のスピーチアクトの様相をポライトネス理論の視点から解明することを目的としている。現在では真の姿がわからない過去の口語表現の特徴を、量的・質的に分析することに焦点を当てた研究である。主に分析するデータは、研究代表者がランカスター大学で編纂に関わった初期近代英語期のコーパスで、そのデータにおける歴史的スピーチアクトの種類、談話標識が発話内力に与える影響について、歴史語用論的視点とポライトネス(対話者同士の善意的配慮)の視点から分析・考察することによって、歴史的データにおける社会言語学的・語用論的特徴を探ろうとした。 歴史語用論は歴史言語学と語用論だけでなく、社会言語学、文体論といった諸分野の知見を利用してテキストを分析することにより、過去の発話状況を復元しようとする領域横断的、学際的な学問分野である。この領域を専門分野とする研究者は日本にはそれほど多くはいないので、日本における言語学研究に新しい視点を導入するという点で意義があると思われる。独自のアノテーションを付加したコーパスを利用するというデータと研究方法に関しても、独創性のある研究ということができる。 共同研究者とのポライトネス研究においては、日本語の授受動詞「させていただく」の補助動詞としての使用に注目し、質問紙調査とコーパス分析を行った。データとして使用したのは、青空文庫と国立国語研究所の構築した「書き言葉均衡コーパス」である。新旧2つのコーパス・データを歴史語用論的視点から量的に詳細に分析し、これまでの敬語研究に新しい知見を加えることができた。 これらの2種類の研究成果については、国内外の学会や研究会において発表すると同時に、論文も執筆した。
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