研究課題/領域番号 |
16K02792
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
才田 いずみ 東北大学, 文学研究科, 教授 (20186919)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 日本語教育 / 雑談 / 会話教育 / 接触場面 / 評価表現 / 語り |
研究実績の概要 |
本研究は,会話の中でも特に目的を持たずに行われる「雑談」を取り上げ,接触場面でのスムーズな展開を可能にする方策を学ぶ教材と練習環境をウェブ上に提供し,世界中の日本語学習者のニーズに応えることを目的とするものである。 雑談は単なるおしゃべりであり教育の必要はないと考えられているかもしれないが,雑談が上手に展開されれば互いの距離が縮まり,よりコミュニケーションしやすい関係を作ることができる。雑談が人間関係形成に果たす役割は大きいと言える。しかし,雑談をスムーズに行うことは,多くの日本語学習者にとって難しいことであるように観察される。学習者にどのような教育を行えば楽しく雑談する力が身に付くのかは,まだよくわからないことだらけであるが,本研究を通して,日本語母語話者と学習者の雑談に見られる違いのいくつかは取り出すことができてきた。 昨年度の実績報告で,「<語り>への消極性」をポイントの1つとして取り上げたが,これに関連すると思われる現象として,<評価>の発話の出現頻度の違いが挙げられる。具体的に数え上げてはいないが,ある男女による接触場面会話で,日本語母語話者女性が情報要求者となった場合と日本語非母語話者男性が情報要求者になった場合を比較した。どちらもアルバイトを話題にしている部分を分析したところ,日本語母語話者は,12秒間のやりとりの中で,非母語話者から提供された情報に対して,「おー」や「えー」などの評価的な間投詞を4回用いて情報提供の継続を促していた。それに対し,非母語話者は,19秒間のやりとりで<評価>が行われたのは,終わり近くの1度だけであった。そのほかは,提供情報の繰り返しや「なるほど」などの<理解>を示す相づち的発話が多用されていて,<語り>を促しにくい傾向があるように観察された。これが,接触場面に由来するものか,男女の違いによるものかは,今後の検討課題である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は,口頭表現の流暢性が母語話者ほど高くない非母語話者の協力を得て,3者による接触場面の雑談会話を,できれば同性同士と異性の組み合わせで収集し,<語り>への消極性が個人特性なのか口頭能力の制約によるのかなどの,雑談の展開の問題について検討を進めたいと考えていたが,データ収集が望んだ条件でできなかったので,この検討は積み残しとなっている。その点からは,進捗は計画よりも遅れているが,男女ペアの接触場面と第三者接触場面の雑談の分析を進めて,いくつかの教育的手がかりを得たことから,教材化の面では練習の具体的なデザインをすることができた部分もある。練習に用いるビデオクリップの編集も行ったので,教材化については,計画よりもやや進んでいると言える。 これを平均すると,おおむね順調と言ってもよいかもしれないが,多少低めに見積もって,やや遅れている,と判定しておく。
|
今後の研究の推進方策 |
平成30年度は最終年度なので,まずは,これまで得た知見をもとに,ウェブからアクセスできる雑談練習教材を構築する。できれば,それを学習者に試用させ,評価を得て,学会発表を行ったり論文にまとめたりすることを目指す。 雑談データの収集・分析については,まだ満足できるほど雑談のコツや学習者の問題点が抽出できたわけではない。29年度の研究で,大変流暢というほどでない学習者と日本語母語話者を組み合わせた2者間接触場面会話には,通常の雑談とは違ったパターンが現れる傾向のあることが確認できた。こうした接触場面会話では,日本語母語話者がもっぱらインタビュアのようになってしまい,学習者の話を引き出したり学習者の発話維持を支援したりする活動に注力してしまうため,2者で対等にターンを取り合う雑談にならず,会話の流れが非常にコントロールされたものになってしまうのである。親しい間柄の上級学習者と日本語母語話者であれば,かなり自然な雑談が展開されるが,そこには本研究で支援したいと考えている「十分な形で雑談に加われない学習者の特徴」は見出しにくい。雑談学習支援のポイントを探るためには,やはり2者間ではなく3者間会話が必要であると言えよう。日本語レベルと人間関係の両面で,本研究の求める条件に適合する協力者を得ることは容易ではないが,30年度もあきらめずにトライしていきたい。 時間と費用に余裕があれば,もう1つ考えたいことがある。それは,ビデオクリップの収納と操作に関することで,YouTubeを利用している現在の方式から,中国国内からでもストレスを感じずにアクセスできる方法に切り替えることである。ビデオ映像収納のためのサーバを導入して維持管理することは難しいため実現できるかどうかはわからないが,何かよい方法がないか,探ってみたいと思っている。
|