今年度は,これまでに収集した雑談データを検討しなおし,接触場面における問題点として昨年度までに指摘した「評価の出現頻度が低い傾向」と「語りへの消極性」「語りの促しの不十分さ」のほかに,「話題転換の唐突さ」が見られることを確認し,発表した。加えて,研究代表者の研究室の学部学生が卒業論文において接触場面での非母語話者の「言いさしへの対応の不適切さ」を扱ったので,それについても共同で発表した。 「言いさし」への不適切な対応は,「言いさし」が話題の終結や転換を示した場合に見られた。日本語の話しことばでは,水谷信子(1988)が指摘しているように,相手と共同で話を進める「共話」が多く用いられる。これは当然,あとに続く内容が予測可能な場合に生じるので,まとまった話の終結部で,当該内容についての結論や評価を述べる際などに多く見られる。話を終えようとする場合には,結論を文末まで自力ではっきり口にして,それまでの話を繰り返すような印象を与えるより,相手の理解の確認ともなる「共話」に委ねたほうが,日本語として自然な談話の形であると言えよう。ところが,こうした日本語の談話構造に慣れていない日本語非母語話者は,「言いさし」を発話ターンの保持手段と捉えることが多いようで,言い切りになっていない「言いさし」に対しては,相手ターンの継続を黙って待つ,あるいは,単に相手の話を聞いていることを示す「はい」や「うん」などの単純な相づちを打つ,という不適切な対応をしがちで,かえって円滑な談話の展開を阻害することになる。 残念なことに「言いさし」については,ウェブでの公開許可を得たデータがなく,雑談教材に組み込むことができなかったが,他の問題点については,ウェブ上に「雑談名人」という,いろいろな雑談が視聴できるサイトを構築し,一部の実例を利用して,適切な対応を考える練習問題を付し解説等も呈示した。
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