研究協力者として日本語教師5名に専門的知識を提供してもらって学習項目に限定してウェブ版公開を行い、学習項目の説明の修正に加え、授業での使用を行った。作文に必要な文法および文体を取り出した上で、学習者の作文における誤用として取り上げるべき学習項目に絞ることの重要さを再認識した。学習項目として取り上げた文法は、文法や作文の教科書でも取り上げられる項目である一方、作文のために必要な表現として作文学習の中で体系的に取り上げられてはいない項目であった。作文に必要な文型のリストとして、あるいは、文法の体系的学習として組み込まれた文型として、という提示方法とは異なる教材が作成できた。作文を学ぶ上で中上級学習者が参照でき、かつ体系的に作文のための文法を参照できる、という目的に沿った教材となった。 パワーポイント版の参照教材作成と並行して、最終年度に追加調査を加え、作文調査として、課題作文作成・アンケート・インタビュー(承諾を得た者のみ)を日本の大学・大学院に在籍中の中上級日本語学習者65名、日本語母語話者44名に行うことができた。作文における誤用を手がかりに、学習者および母語話者が作文学習に対する困難点や作文を書く行為の捉え方を探った。書き手である学習者と母語話者双方に共通するのは表現の選択や多様性の不足であった。また、学習者の一部は母語での作文学習の経験だけではなく、日本語以外の外国語学習の経験や知識が日本語の作文学習や自身の書く作文にも影響を与えていることがわかった。日本語の文章では頻度がほとんどない表現や構成の使用について、誤用分析とは異なるアプローチが必要となることが明らかになった。今後の課題として、作文における文章レベルの誤用の解明は、書き手の日本語の作文学習の他に、日本語学習に影響を与えたと見られる母語や外国語の学習内容や学習方法も含めて検討する必要がある。
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