研究課題/領域番号 |
16K02798
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
ボイクマン 総子 (椙本総子) 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (50370995)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 中間言語語用論 / 断り / 第二言語習得 / 語用論的能力 / 第二言語環境 / スピーチ・レベル / 日本語能力 / 発話テスト |
研究実績の概要 |
本研究は、話し相手のface(面子)をより直接的に脅かす危険性のある発話行為である「断り」に注目し、留学における語用論的な発達過程を縦断的に検証することである。本年度の実績としては、具体的には、対話相手とのDistance(距離), Power(上下関係), Rank(状況おける負担度)の違いのある12種類の「断り」の状況の音声データ65名分を学習者(L2)の来日直後に収集した。帰国時のデータ収集は7名分行った。同時に、比較対照データとして日本語母語話者のデータ60名分も収集した。統計的な分析を行うには、このL2のデータを如何に数多く集めるかがキーとなる。 現在、習熟度の異なるL2、65名分の収集ができているがこれだけでは、下記の本研究の3つの目的: (1) 第二言語環境(留学)は外国語環境より語用論的能力の習得が促進されるのか、(2) 「断り」をめぐる「スピーチ・レベル」や「意味公式」、「その言語形式」を調べ、語用論的な特徴の発達がどのような過程を経るのか、明らかにする。そして、(3) 「断り」をめぐる語用論的能力の習得は習熟度の違いによりどのような過程を経るのかについても解明する、を行うにはまだ不十分であるため、引き続き、L2のデータ収集を行う。 また、上述の目的を達成するために、中間言語語用論の先行研究、中でも「断り」と「スピーチ・レベル」の国内外の先行研究の文献調査を行った。 さらに、「スピーチ・レベル」については、日本語母語話者のスピーチ・レベルについての論文を投稿し、現在査読結果を待っている状況である。さらにL2のスピーチ・レベルの論文についても、執筆中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
中間言語語用論の先行研究、中でも「断り」と「スピーチ・レベル」の国内外の先行研究の文献調査については、ほぼ終了した。 日本語母語話者のデータについては、60人分収集し、文字起こしも完遂している。学習者のデータは65名分収集できており、全員の文字起こしが済んでいる。尚、65名のうち、留学終了時のデータ収集と文字起こしが済んでいる学習者は、7名である。学習者の日本語習熟度は留学開始時のプレイスメントテストの結果から、「初級後期、中級前期、中級中期、中級後期、上級」の5レベルに分けているが、全てのレベルについて均等にデータが揃っているわけではなく、5レベルに分けて統計処理を行い検証するにはデータの数がまだ十分ではない。 上述の文献購読とデータ収集とは別に、スピーチ・レベルの解明のために、日本語母語話者のスピーチ・レベルについての論文を執筆し、2017年3月に査読誌に投稿した。現在、査読結果を待っている状況である。また、学習者のスピーチ・レベルについての論文は現在執筆中である。
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今後の研究の推進方策 |
日本語母語話者のデータは十分あるため、そのデータを「スピーチ・レベル」と「意味公式」「言語形式」の面から分析し、日本語母語話者の「断り」の特徴についての研究発表を行い、かつ、論文を執筆する。学習者の「断り」については、データ収集を継続して行い、「初級後期、中級前期、中級中期、中級後期、上級」の各レベルで20名〜30名のデータを得たい。 データを分析し、(1)日本語母語話者の「断り」と上級学習者の「断り」を比較対照し、学習の困難点を探る。(2)学習者の「断り」について留学直後と帰国時を比較し、外国語環境と第二言語環境の違いによる語用論的能力の習得を明らかにする。(3)来日時と半年後、来日時と1年後の「断り」をめぐる「スピーチ・レベル」「意味公式」、及び、「その言語形式」を調べ、語用論的な特徴の発達がどのような過程を経るのか解明する。(4)データ収集の状況によって、「初級後期、中級前期、中級中期、中級後期、上級」の5レベルまたは、「初級、中級前期」「中級中期、中級後期」「上級」の3レベルに分け、「断り」をめぐる語用論的能力は習熟度の違いによりどのような過程を経るのかについて検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度(本年度,28年度)に海外において学会発表を行う計画をしていたが、データ収集と論文執筆に専念したため、旅費がかからなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、研究成果を国内外の学会で発表する予定で、すでに応募も行っている。その旅費経費に充てる予定である。
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