研究課題/領域番号 |
16K02810
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研究機関 | 愛知教育大学 |
研究代表者 |
松井 孝彦 愛知教育大学, 教育実践研究科, 講師 (20758388)
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研究分担者 |
松井 千代 岡崎女子短期大学, 幼児教育学科, 講師 (50770038)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 日本語多読 / 日本語指導 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は「小中学生の日本語能力の変化及び日本語の読みに対する情意面の変化を明らかにすること」と「多読用図書の難易度設定に関する基準の設定及び多読用図書リストの作成」の2点である。この目標を達成するために、平成28年度では「テスト・アンケートの試案作成」及び「多読用図書選定・リスト作成」という二つの組織を作り、活動に取り組んだ。 「テスト・アンケートの試案作成」では、小学生を対象とした「日本語を読むことに関するアンケート」と「読書感想用紙」、そして多読の取り組み方の説明文を、日本語、ポルトガル語、スペイン語、中国語、タガログ語で作成した。日本語多読指導について、小中学校でも実践はされているが、実証的に効果を検討した研究はあまり見られない。本アンケートを使用し、一定期間日本語多読に取り組んだ小学生の、日本語の読みに対する情意面の変化を明らかにすることは、日本語多読研究の裾野を広げることに貢献するのみならず、日本語多読が特別の教育課程に位置付けられた日本語指導の手立ての一つとして貢献できることを示すことができるのではないかと考える。 「多読用図書選定・リスト作成」では、「多読用図書の難易度基準作成に関する研究」「400~500冊程度の多読用図書リストの作成と難易度レベルに関する意見収集」「次年度に行う多読実践のための研究協力校への依頼」「研究協力校へ配布する多読用教材の購入と、難易度レベルごとの本の分類と整備」を行った(進行中のものも含む)。日本語多読研究は、日本への留学を考えている海外の大学生や大人を対象としたものが多く、難易度に関わる先行研究についても、小学生を対象とした研究はあまり見られない。小学生用の教科書に登場する語彙を網羅的にまとめ、既存の難易度別語彙リスト等と比較をし、小学生用の新たな難易度設定を行うことは、小学生が効果的な多読を行うために有効であると考えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成28年度の研究実施計画に述べた活動には、「テスト・アンケートの試案作成」においては「文章問題作成」と「日本語を読むことに関するアンケートの私案作成」の2点が、「多読用図書選定・リスト作成」においては「(1)多読用図書の難易度基準作成に関する研究」「(2)児童用図書(市販本)の語彙、表現、語数分析」「(3)400~500冊程度の多読用図書リストの作成と難易度レベルに関する意見収集」「(4)次年度に行う多読実践のための研究協力校への依頼」「(5)研究協力校へ配布する多読用教材の購入と、難易度レベルごとの本の分類と整備」の5点がある。これらの中で、完全に終了している活動は、アンケートの試案作成、及び(3)(4)のみであり、他の活動については平成29年度にも行っていかなければならない。また、学会等での研究発表を行うことができていない点も、やや遅れていると判断する理由である。 (1)に関しては、先行研究や日本語能力試験出題基準語彙表についての精査は行ったが、小学生用の教科書に登場する語彙分析が完了していない。これに影響を受けて、(5)における難易度レベルごとの本の分類がまだ完了していない。(2)については、(5)にも関わる点として児童用図書(市販本)の購入はしたものの、図書全ての語彙、表現、語数分析はまだ終了していない。 以上の点に関しては、平成29年度にも継続して行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度には、平成28年度に完了できなかった活動を継続的に行いつつ、愛知県内の公立小学校(1校。以下協力校)において日本語多読の試行実践を行う。その試行実践を通して、「テスト・アンケートの作成」及び「多読用図書選定・リスト作成」という二つの組織の、主に前者の活動を中心に行う。 「テスト・アンケートの作成」については、協力校の児童に、平成28年度に作成した「日本語を読むことに関するアンケート」へ、多読活動を開始する前と多読活動開始6ヶ月後及び年度末に答えてもらう。そして、回答の変化を分析し、日本語多読が日本語の読みに対する情意面の変化にどのように影響を与えたかを分析する。また、平成28年度に作成できなかった「Reading能力」「速読力」を測定するための文章問題を作成する。文章問題については、各難易度レベル2種類の問題を作成し、それらが等質になるよう精査していく。また、平成29年度には、先行研究を参考にして語彙習得に関するテストも作成する。なお、語彙習得テストのパイロットテストは協力校に依頼する予定である。 「多読用図書選定・リスト作成」については平成29年度にも継続して取り組んで行くが、「児童用図書(市販本)の語彙、表現、語数分析」「400~500冊程度の多読用図書リストの作成と難易度レベルに関する意見収集」が活動の中心となると考える。最終的には、500~700冊程度の図書リストを作成していきたい。また、試行実践の中で小学生からフィードバックを得ながら「多読用図書の難易度基準作成に関する研究」に関する精査を行い、日本語の難易度を決定する要素を分析し、その研究結果を発表したいと考えている。 研究体制については変更の心配はないと考える。協力校に対しては平成30年度も研究協力を依頼するが、やむを得ず変更する場合は、教職大学院の連携協力校に依頼をすることはできると考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由には、多読実践用の図書購入冊数が少なかったことと、多読用図書の整理台車を購入しなかったことの2点があると考える。 多読実践用の図書については、当初計画によると500冊を3セット購入する予定であった。しかし、多読用図書の選定が遅れ、購入冊数が少なくなってしまった。また、多読実践の協力校が当初計画の2校から1校のみとなったため、分析用としての多読用図書と協力校1校分の図書の計2セットのみの購入になってしまった。結果、平成28年度は、356冊を2セット購入したのみであった。 多読用図書の整理台車については、多読実践の協力校の了解を得てから購入をしようと考えたため、平成28年度には購入を見送った。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は、当初の計画通りに備品及び消耗品を購入しようと考える。 多読実践用の図書については、平成29年度の協力校における総数は700冊程度となる。多読実践では、多読用図書の数が多いほど効果が高まるという研究データがある。そこで、まずはこの数の達成を目指し、図書の選定から購入までを行う。併せて、本を整理する台車も用意する。 多読実践の協力校についても、今後さらに1~2校増やしていく。平成29年度には、少なくとも1校協力校を増やし、その協力校で使用する図書及び本を整理する台車を購入する。
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