本研究は、日本語教育が植民地政策の一翼を担った「満洲国」を対象とし、当時の教育実態を明らかにするとともに、その後の中華人民共和国における日本語教育の確率に与えた影響を解明することを目的とする。とくに学術的な特色として、政策としての評価からは見えてこなかった、教育による人的育成の効果について検討し、日本語教育の歴史的な功罪について“人”への影響をという側面からの再評価を試みる点が挙げられる。 平成30年度の研究成果としては、以下の3点が挙げられる。 1)前年度までに収集した、主に戦中・戦後に発行された教育関連資料(聞き取り調査を含む)に対する分析により、戦後日本の教育界における「満洲国」教育に対する否定的評価の拡大の傾向と、中国東北部の日本語学習者と教育関係者の回想等に見られる思想の変遷について明らかにすることができた。 2)この研究成果を日本及び中国の関係分野の研究者が集う国際学会において精力的に発表した結果、「満洲国」教育に対する率直な批判的意見もある中で、本研究に対して学術的意義の面から確実に一定の評価を受けることができ、今後の研究の展開に対する手応えを得た。 3)本研究を通じて中国側の研究者と堅固なネットワークが構築でき、1冊の研究書にインタビュー担当者として参加することができた(斉紅深主編『日本侵華殖民教育口述歴史⑥』,天津人民出版社)。また国際学会での発表等の実績により、1冊の研究書への寄稿(令和二年発行予定)と中国側の国家研究課題のグループへの参加が認められ、本研究の発展的継続への筋道をつけることができた。
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