研究課題/領域番号 |
16K02815
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
大神 智春 九州大学, 留学生センター, 准教授 (50403928)
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研究分担者 |
郭 俊海 九州大学, 留学生センター, 教授 (20377203)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | コロケーション / 多義語 / 概念形成理論 / プロトタイプ / 典型化 / 一般化 / 差異化 / 中国人学習者 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、日本人大学生と日本語学習者が考える多義動詞「とる」のプロトタイプを整理した上で、「多義動詞「とる」で形成される様々なコロケーションをどれだけ深く理解しどのように使用するか、それは発達過程においてどのように変化するか」について、概念形成理論を援用し明らかにすることである。本年度は、まず日本人大学生が考える「とる」のプロトタイプと辞書における中心的な語義には相違があるかどうかを明らかにするために、「とる」の語義を9に区分し、母語話者がそれらをプロトタイプから周辺的な語義までどのように体系づけるか、辞書による語義体系とどのような相違がみられるかを調査した。その結果、大学生によるプロトタイプから周辺的語義までの位置づけは辞書によるものとおおよそ一致したが、一部の周辺的な語義において相違が確認された。 次に、日本語学習者が考える「とる」の「プロトタイプ」を明らかにし「とる」で形成されるコロケーションの意味をどのような過程を経て習得していくかを明らかにするため、調査用紙を作成し調査を実施した。田中・深谷(1998)による概念形成理論では、語義の習得は「典型化」「一般化」「差異化」の3過程を経る。大神(2015)において、「典型化」の過程では、学習者は使用頻度の高い語義を「プロトタイプ」と設定しそこから意味体系を構築していくことが明らかになった。本研究では「一般化」「差異化」に焦点を当て、次の観点から調査を行った。 ①学習者のレベルが高くなるにつれどのようにコロケーションの意味理解および産出が進むか、「一般化」(多義的な意味を持つ中心語で形成されるコロケーションを理解し産出できるか)。「差異化」(意味的に関連した表現との使い分けについて理解しているか)。 中国河南大学において中級・上級合計75名を対象に調査を実施し、調査の結果をデータベース化した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の研究計画・進捗状況および理由は次の通りである。 1.調査対象とする多義動詞「とる」の意味分類を行い、文完成課題およびフレーズ性判断課題を作成する。→計画通り「とる」の意味整理を行い、調査用紙を作成した。文完成課題は2015年度にすでに作成し調査を実施したことから、本研究ではフレーズ性判断課題を作成した。 2.調査対象とする多義語「とる」が中国語ではどのような表現であらわされるか整理する。→日本語の「とる」と中国語の対応語に関する先行研究を収集した。先行研究の整理および「とる」の日中対象研究は平成29年度の課題とする。 3.日本語母語話者が考える「とる」のプロトタイプを明らかにする。→計画通り調査を実施した。分析としては、辞書による意味提示順と日本人大学生が考える典型的意味から周辺的意味の流れを比較し、日本人大学生の概念にある意味体系の特徴を明らかにした。 4.中国の大学で調査を実施・分析し中間結果をまとめる。この段階で作成したデーターベースをもとに不備等がないか点検し、必要に応じて調査内容を修正する。→計画通り河南大学において調査を実施し、調査をデータベース化した。調査は2年次の学生(中級)と3年次の学生(上級)を対象に行った。上級レベルは55名の学習者を対象に実施することができたが、中級レベル実施日の天候が悪く学習者は20名しか集まらなかった。データベース化後、中間結果をまとめるために中級レベル20名、中級レベルに合わせるため上級レベルから任意に選定した20名分のデータを集計し両者の平均点を算出したが、中級レベルと上級レベルには差がみられなかった。この結果が妥当なものであるか検証するため、さらにデータ数を増やす必要がある。 以上よりおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
1.調査対象とする多義語「とる」が中国語ではどのような表現であらわされるか整理し、調査分析の際の参考にする。平成28年度は先行研究を収集する段階まで行った。平成29年度は先行研究をもとに日中対象研究を行い、「とる」に対応する中国語と「とる」の意味体系の違いをまとめる。 2.引き続き中国の大学で調査を行う。平成28年度は、中級レベルの学習者のデータを20名分しか収集することができなかった。本年度は中級レベルの学習者を対象に調査を行うとともに、上級レベルの学習者についても引き続き調査する。なお、調査用紙だけでなく、学習者にフォローアップインタビューを行うことにより、どのように考えて回答したか、どのような点が困難であるかについて明らかにする。 3.収集した調査結果をデータベース化し、以下の点について分析を行う。 ①1つの多義語で形成されるコロケーションについて、学習者のレベルが高くなるにつれどのように意味理解および産出が進むか。「一般化」(多義的な意味を持つ中心語で形成されるコロケーションを理解し産出できるか)。「差異化」(意味的に関連した表現との使い分けについて理解しているか)。 ②「一般化」「差異化」は学習レベルによりどのように変化するか。 なお、ANOVA等の統計処理を行う量的分析とフォローアップインタビューの結果から1人1人の認知的な側面を探る質的分析の両者を行うことで重層的に考察できるものと考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度は研究代表者と研究分担者が2人で中国での調査を行う予定であった。しかし、研究分担者が中国語母語話者である上、研究分担者の知人が日本語を教えている大学で調査を実施することになったことから、中国での調査は研究分担者1名で実施できると考えた。そのため研究代表者は調査に同行せず結果的に当該助成金が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度、再び中国で調査を実施する必要があることから、旅費・被験者への謝礼を含め約20万円が必要であると予想される。そのほかに中間報告を海外の学会で行うことを計画していることから旅費で約15万円かかる見込みである。その他に国内学会への参加で約10万、人件費(データ整理)で約2万、物品購入で約3万を予定している。合計約50万円となり、平成29年度分として請求した助成金40万円と当該助成金を合わせた約50万円に相当する使用計画となっている。
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