本研究の目的は、日本語学習者が考える多義動詞「とる」のプロトタイプ(典型的意味)を明らかにし、多義動詞「とる」で形成される様々なコロケーションをどれだけ深く理解しどのように使用するか、それは発達過程においてどのように変化するか」について、概念形成理論の「典型化(プロトタイプ形成)、「一般化(多義性理解)」、「差異化(類義性理解)」の枠組みから明らかにすることである。平成28年度は学習者を対象に調査を実施するとともに、結果を比較するために日本語母語話者に対しても調査を実施した。平成29年度はまず「差異化」について分析した。最終年度である平成30年度は「典型化」と「一般化」の分析を進めた。その結果、学習者における多義動詞「とる」のコロケーション習得の実態について次の点が明らかになった。 1.「典型化」については、学習者は初級レベルで学習した語義を中心に据えていることが明らかになった。尚、中国で日本語を学習する学習者のプロトタイプは日本語母語話者のものとも日本の大学に在籍する中国人留学生のものとも異なることが明らかになった。 2.「一般化」については、海外で日本語を学習する際教科書や教室での影響が大きく日本語に接する機会も限られることから、教科書や教室で学習しない「とる」の用法は習得が進まず下位群と上位群の理解度には差が見られないのではないかと分析前に仮説を立てた。しかし結果は仮設とは異なり、下位群と比べて上位群では理解度が有意に高いことが確認された。ただし、下位群と比較して理解度が高いと言っても、上位群内では各用法の理解にばらつきがみられ、イディオム的な用法や共起語を想起しにくい用法の習得は遅れることが明らかになった。 3.「差異化」については、上級レベルになると類義語同士の語彙のネットワーク知識が構築され始めることが明らかになった。
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