本研究ではベトナム難民第2世代の社会統合について考察すること目的とし、ベトナム難民第2世代の日本社会における自己認識(課題1)、ベトナム難民第2世代が活躍する場における日本語の機能(課題2)という2つの研究課題を設定した。 課題1については、ベトナム難民第2世代7人に対してインタビューを行い、「境界文化」概念(差異化と統合化の過程を生きる人々の内面の実践文化)を用いて分析を行った。その結果、出入国管理制度上、あるいは生活場面における外国人としてのカテゴリー化、家庭と学校との断絶によって差異化され、日本文化資本不足を認識すると同時に、日本語、日本人の行動様式を身につけていること、日本に居住してきたことに基づく統合化も強く志向していることが分かった。また、歴史や年中行事に関する知識不足を理由として自らを中途半端と認識するように、固定的な文化言説の影響が見られる一方で、「ベトナム系日本人」というカテゴリーの創造、バイリンガルとしての自己表出など、既存の言説を乗り越える兆しも見られた。インタビュー協力者は、高卒以上の学歴で親とは異なる職業選択をしているが、学校等で提供される支援、向学校的な家庭環境、ベトナム人コミュニティー、教会といった社会関係資本がプラスに作用していることも分かった。 研究課題2については、主として定時制高校の部活動において参与観察を行った。その結果、部活動に関わる教員のことばの使い方として、否定的な評価をせず生徒を積極的に褒める、生徒の発言、意思を受け入れ尊重するといった特徴が見られた。このような教員の態度は生徒の「audibility」(他者に理解され受け止められること)を確保していると考えられる。また、自分の母語を教えるなどエスニシティを顕在化させる活動がある一方で、生徒どうしの間には日本語によって先輩・後輩の関係、仲間の関係も築かれていた。
|