本研究は、日本と中国の学生がそれぞれの母語で書いた意見文の違いを、文章全体の構造、用いられる表現技巧という2つの観点から明らかにすることを目的としている。本年度は、2017年度に行った研究発表に再検討を加え、分析対象となる意見文を増やして、分析の精緻化を図った。考察にあたっては、日中の国語教育の影響を考慮するために、中国の課程標準(日本の学習指導要領にあたる)を邦訳し、日本の国語教育との比較を行った。 文章全体の構造については、中国の学生は、まず主題を述べて自分なりの観点や考えるための切り口を示し、その後、論拠となることがらをいくつか挙げ、最後に結論としての主張を述べるという順序で書く傾向が非常に強いこと、日本の学生は、まず自分の主張を明確にしてから論拠を挙げ、最後にもう一度、主張を述べるという書き方が比較的多く見られるものの、それが標準的であるとまでは言えず、文章構造にはばらつきが見られることが明らかになった。この背景には、日中の中等教育における書くことの教育の違いがあることが示唆された。特に、中国では、書くことの教育の中で自分なりの観点を持つことが強調されており、それが意見文の構成に大きく影響していると思われる。 表現技巧については、中国の学生は、古典、故事、名句の引用を多用し、また、比喩表現を用いるなど、技巧を凝らす傾向があること、日本の学生は、身近な例、自分自身の体験を一般化して論じる傾向があることが明らかになった。これには、中国の国語教育では古典を始めとする名著に関する人文学的な教養が重視され、そうした教養を示すことが高評価につながること、日本の国語教育では、読書感想文執筆などを通して、問題を自分の経験に引き寄せて考え、具体的に論じることが指導されることが影響しているのではないかと考えられる。
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