本研究の目的は,日本語学習者が日本語の語レベルのリズムをどのように学習していくのか,その学習メカニズムを明らかにすることである。日本語学習者にとって特殊拍など,日本語のリズム習得は難しいと言われており,学習者のリズムの特徴に関する報告は数多く行われてきた。しかし,その応用,すなわち教育や実践については効果的な方法が検討されてきておらず,母語話者のモデル発話を一方的に提示するにとどまっている。日本語学習者の学習メカニズムを解明することで,言語リズムの学習理論を構築し,教育に生かしていくことを最終目標としている。 調査は、中国国内(上海・大連)の大学に通う中国人初級日本語学習者27名を対象とした。2016年度は、a. 調査語の選定、b. リズム評定方法の検討、c. 調査資料の準備(中国語訳を含む)を行った。まず、協力者のインプットの質と量を確認すべく、協力者が日本語学習に使っている教材の分析を行い、頻度の高さ(高い・低い)、リズムパターン別に調査語を選定した。また、縦断研究には客観的なリズム評定が欠かせないが、音声分析ソフトPraatを用いて有声音、無声音を切り出してPVI(Pairwise Variability Index; Grabe & Low)の値を求める形でリズムの自動評定の精度が高められるように分析環境を整えた。これらをもとに、2017年6月、2017年11月、2018年6月に同じ協力者を対象に縦断的に調査を行った。 得られた音声データは、ラベリングをし、PVIの値を求めて分析を行った。その結果、日本語学習開始時には日本語の語リズムをレキシカルベースで習得していく傾向が明らかになった。リピート課題では、無意味語の語リズムの方が既知語、有意味語よりPVIの値のばらつきが少なかった。これは、初学時の段階で単語の語リズムを聞いて学習する機会の必要性を示唆する結果である。
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