研究課題/領域番号 |
16K02839
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研究機関 | 福岡教育大学 |
研究代表者 |
吉武 正樹 福岡教育大学, 教育学部, 准教授 (40372734)
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研究分担者 |
三熊 祥文 広島工業大学, 生命学部, 教授 (10239212)
横溝 彰彦 久留米工業高等専門学校, 一般科目(文科系), 准教授 (00759962)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | オーディエンス教育 / 他社の集団 / 市民意識の形成 / 主体的・対話的な深い学び / 協同学習 / アクティブ・ラーニング |
研究実績の概要 |
初年度にあたる平成28年度は、対話的英語スピーチ活動とシティズンシップ教育との関係を考察するため、3名の研究者が各々担当する分野の文献調査と資料収集を中心に研究を進めた。 まず、シティズンシップ教育や英語スピーチ活動、批判的教育学、対話概念の理論を関係づけるために関連文献を収集し、考察を深めた。その結果、話す活動と捉えられがちなスピーチ活動において、むしろ「聴く」ことを中心としたオーディエンス教育を重視することにより、準備段階から発表後の質疑応答までの一連の過程が対話による合意形成と社会の創出の過程と結びつくことが分かった。特に、クラス集団を多様な意見を持つ「他者の集団」として意識させ、批判的思考へと生徒を導くことが鍵となる。 また、アメリカの高等学校でのシティズンシップ教育実践の参与観察や実践者へのインタビューを行い、民主主義と市民意識形成における教育の機能について調査した。その結果、持論を証拠や論拠とともに組み立て、他者と共有し社会へ発信する経験を教育実践に位置づけることが市民意識を形成する契機になることがわかった。その際、教師に褒められ、ボランティア活動で感謝され、地元新聞への投稿記事が掲載される体験を通し、自尊心を高めつつ市民としての人間形成を図ることが重視されていた。こうした経験は日本ではさほど重視されておらず参考になった。一方、日本では直接的な意見の折衝を好まない文化的背景があり、これらの実践を直に応用はできないが、日本語よりも水平なコミュニケーションが実現しやすい英語だからこそ、あえて意見を表明し語り合う実践を教育過程に組み込みやすいという可能性もあることが確認できた。 最後に、以上のような対話的英語スピーチ活動は、次期学習指導要領の枠組みとなる「主体的・対話的な深い学び」や協同学習やアクティブ・ラーニングの実践を英語教育おいて実現しうることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度としては理論的理解とシティズンシップ教育及び英語スピーチ活動の資料収集を行い、それをもとに研究の方向性を定めることが主なねらいであった。 理論的理解としては、成果として具体的な形は出ていないものの、本研究の鍵となる対話やシティズンシップ教育と英語コミュニケーション、批判的教育学との関係に関する理解が深まり、共同研究者間での相互理解が得られた。 資料収集については、英語スピーチ活動の実践は主としてスピーチ発表やスピーチコンテストについてのものが多く、日ごろの英語の授業で対話として行われている実践やシティズンシップ教育に結び付けた実践は少なかった。そのため、この点においてやや遅れが生じている。しかし、アメリカでの授業観察やインタビューから得られた結果や理論的理解、および、今日の教育改革の方針との関連によって、現存している実践をより対話的にしつつ日ごろの英語スピーチ活動に生かすための道筋は明らかになりつつある。 研究代表者が年度の前半海外にてサバティカル研究中であったため、全員による会合は一度しか持てなかったが、メール等による情報交換は行っており、活発な意見交換ができた。 以上、今後2年の研究において進むべき方向を包括的に描き出すことができたことを鑑み、対話的英語スピーチ活動によってシティズンシップ教育を基盤とした英語教育を再編するにあたり、初年度を終えた時点としてはおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、初年度にやや遅れていた、より直接的な教育実践の取り組みに関する資料収集を継続的に行い、シティズンシップ教育に基づいた英語教育を再編するための対話的英語スピーチ活動の授業実践の分析を続ける。 さらには、国内外のシティズンシップ教育の事情を把握し理解するため、参考になる実践の参与観察や実践者・研究者へのインタビューを行い、そこから対話的英語スピーチ活動と繋げる要素をより具体的に抽出していく。 また、研究者自身の英語やコミュニケーションの授業において対話的英語スピーチ活動を試験的に実践し、その成果や課題を研究者間で共有することで、最終年度により具体的な実践の在り方が提案できるよう研究を進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度の予算執行における物品購入の際、予定よりも低価で購入することができたために残高が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
この残高は次年度に書籍代に充てる予定である。
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