研究課題/領域番号 |
16K02865
|
研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
山崎 直樹 関西大学, 外国語学部, 教授 (30230402)
|
研究分担者 |
中西 千香 愛知県立大学, 外国語学部, 准教授 (50548592)
西 香織 北九州市立大学, 外国語学部, 准教授 (70390367)
植村 麻紀子 神田外語大学, 外国語学部, 准教授 (70512383)
鈴木 慶夏 釧路公立大学, 経済学部, 教授 (80404797)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | コミュニケーション能力指標 / 目標状況 / 目標タスク / コミュニケーション行動の類型 / 『外国語学習のめやす』 / 語用言語学 / 社会語用論 |
研究実績の概要 |
2016年度に完成させた〈文型リスト〉( 『外国語学習のめやす』に記述された「コミュニケーション能力指標 レベル1」に基づいて策定したもの)で取り上げた言語表現と語用言語学的・社会語用論的観点から見た注意事項などの情報が妥当であるかどうかの検証を進めるための枠組みを構築し、検証作業を開始した。 この〈文型リスト〉は指標に基づいて設定された300に及ぶコミュニカティブなタスクを遂行するために選定された言語表現であるが、そのタスク(以下〈目標タスク〉)が必要となる状況を明確にしないうちは、言語表現の適不適を判断しにくい。そのため、そのタスクの使用を想定した〈目標状況〉を個々のタスクに設定した。 また、〈目標状況〉において〈目標タスク〉を遂行するために行うコミュニケーション行動を4類型に分類した。[あいさつ行動 / YS][リスト型会話 / NS][スモールトーク / YT][前実質行動 / NT]である。これは、〈目標タスク〉の中で言語を使う目的が、単なる挨拶なのか、アンケート調査のような列挙型の質問なのか、友好関係の確認のための発話交換なのか、実質的な成果を得るための行動の前段階の発話なのかを規定しないと、必要とされる言語表現の幅(変異)と深さ(構造)を決定しにくいためである。 これらの〈目標状況〉とコミュニケーション行動の類型に基づき、これまでに設定した言語表現の適不適を判断すべく、ネイティブ話者のインフォーマントに対し、言語調査を開始した。この調査は、日本国内において、中国出身の留学生を対象に、また、台北市において、台湾の大学院生を対象に実施された。 同時に、この実地調査においては、〈文型リスト〉の「語用言語学的・社会語用論的観点から見た注意事項」の記載を充実させるべく、語彙の選択、文型の選択、語用言語学的・社会語用論的なバリエーションについても情報をできうる限り収集した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
(1)〈目標状況〉を設定し、コミュニケーション行動の類型を決定する作業はすでに終了している。(2)言語表現の適不適の検証、(3) 語用言語学的・社会語用論的情報の収集については、当初の予想よりも遥かに長い時間がかかることがわかり(特に(3)の事項の情報を引き出すために時間が必要である)、台北市での調査は、調査担当者・山崎が、在外研究員として1年間、台北市に滞在することができたため、すでに終了したが、日本国内の調査は、まだ進行途中である。 (1)は、当研究課題の申請時には計画してなかった作業であるが、研究課題遂行の一部(客観的な検証に耐えうる、コミュニカティブな言語教育に資する言語資源の構築)として絶対に必要不可欠であると判断し、これを優先させた。そのためと、(2)(3)の作業(特に(3))に予想外の時間を費やしたため、2017年度中に終わる予定であったレベル1の〈文型リスト〉の完成には至っていない。
|
今後の研究の推進方策 |
当初の計画では、『外国語学習のめやす』のコミュニケーション能力指標のレベル2についても、文型リストの構築を進める予定であった。しかし、次の2点の理由により、その目標を修正すべきと考えている。 (1) 「文型リスト」という概念の拡大……当研究組織が〈文型リスト〉の構想を立てたときには、コミュニカティブな目的から出発した言語表現の例示と類型化が視野にあった。しかし、研究を進めるうちに、〈目標状況〉に基づいた〈目標タスク〉の設定、コミュニケーション行動の類型化、語用言語学的・社会語用論的観点からの情報提供など、さまざまな要素を考慮しなければ、例え、初級段階の教育であっても、真にコミュニカティブな言語教育に資する言語資源が構築できないことが判明した。レベル2の〈文型リスト〉に取り組むには、レベル2のコミュニケーション指標に対してもこの作業が必要であるが、そのための時間は当初の計画では計算していない。 (2) 語用言語学的・社会語用論的情報を調査することを難しさ……このような情報を正確に引き出すためには、長時間にわたる調査が必要である。大学の教員としての繁忙な通常業務と授業時間の合間に、このような時間を定常的に捻出して調査を行い、整理するのは、困難である。また、正確性の担保のためには複数のインフォーマントが必要だが、その確保も、通常業務の職場環境では困難である。 よって、最終年度を迎える2018年度は、現在、取り組んでいるレベル1の〈文型リスト〉の修正版を完全なものにし、学界に公表し、日本の中国語教育の資産としての共有を開始することを目標として作業を進めたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2017年度使用予定額に比べ実際の使用額が少なかった原因のおおもとは、〈文型リスト〉の検証作業が計画よりも遅れたため(その理由は、進捗状況の項に詳述した)、以下の遅延が生じたことによる。 (1)ネイティブ話者をインフォーマントとした実地調査が計画通りに進行しなかった。(2)文型リスト(レベル1)の修正について研究組織全体で討議する会合が持てなかった。これは、全体で討議するための材料が揃わなかったためである。(3)文型リスト(レベル1)の修正版が完成しなかったため、これの公表をするイベントを開くことができなかった。 2018年度は、検証作業に必要な枠組みはすでに完成しているため、検証作業そのものも順調に進められる予定であり、また、文型リストの修正のための全体会議も複数回開く予定である。そして、年度の最後には、成果公表のためのイベントも開催する予定である。
|