研究課題/領域番号 |
16K02873
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研究機関 | 阿南工業高等専門学校 |
研究代表者 |
勝藤 和子 阿南工業高等専門学校, 創造技術工学科, 教授 (50363130)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 学習ストラテジー |
研究実績の概要 |
速読力発達の通時的観察の結果,熟達度別に分類した上位群・下位群ともに,読みの正確さは,速読訓練の期間中,終始一貫して70~100%の正答率を維持した。WPMは,両群ともに緩やかに発達し,特に,下位群の方が上位群より発達の傾きが大きかった。下位群は正確さよりも速度に重きを置き,上位群は,正確さと速さのバランスを調整しながら読んでいることがわかった。 どの学習ストラテジーを活用しているかに関しては,Oxford (2011) のS2Rモデルに照らし合わせると,調査対象の高専生は,メタストラテジーよりも,言語処理に用いる認知ストラテジーを多用していることがわかった。ストラテジーの3つのディメンションのうち,とりわけ,認知ストラテジーの使用頻度が突出しており,その中でも理解や記憶のための五感活用や論証,詳細から概念化のストラテジーの頻度が高かった。メタストラテジーに関しては,メタ認知ストラテジーがメタ情意ストラテジーやメタ社会対人ストラテジーより頻度は高かったが,全体的に見て,ストラテジーに比べると,メタストラテジーの使用は低いという結果となった。両群が用いる学習ストラテジーを比較すると,上位群は下位群よりメタストラテジーの使用頻度がわずかに高いが,両群ともにメタストラテジーの頻度よりもストラテジーの頻度が圧倒的に高い傾向は変わらなかった。この結果から,従来の速読指導では学習者が速読技術(例:設問の先読み)を身につけることはできたが,学生自身が自ら学びを持続させられるようなメタ認知ストラテジーの発達は起こらなかったと考えられる。尾関(2010)は「メタ認知を持った学習者は,最終的にアカデミックな分野で成功する可能性が高く,優れた学習者とそうでない学習者を区別する大きな要因にもなっている」と明言している。今後,明示的なメタストラテジー指導を行うことが必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず,初年度の計画において,文献精査については,学習ストラテジーに関する文献調査から最先端の理論的動向を把握することが目標だったが,特に Oxford (2011)のS2R Modelを中心に精査が進み,同時に,国内におけるストラテジー指導の実証的な研究の精査についても順調に進捗した。 初年度の目標として掲げた2つ目の計画は,学習ストラテジー調査によって高専生の学習ストラテジーを現状把握することであった。これに関しては,自由記述のアンケートを作成し,熟達度別に学生を分けて,その違いや特徴を探った。アンケート結果の内容についてはS2R Modelに照らし合わせて分析と考察を行い,学生の学習ストラテジー現状から,今後指導強化が求められるストラテジー領域は,上位群・下位群ともに,メタストラテジーであることが明らかになった。この結果を基礎研究資料として平成29年度以降は,LASSI(The Learning and Study Strategies Inventory) や MSLQ (Motivated Strategies for learning Questionnaire) なども参考に精度の高いアンケートを開発し,実施する方向である。 3つ目の計画は,調査の対象となった英語リーディング力を客観的に把握することだった。学習ストラテジー指導は基本的に当該分野の能力の発達が伴わなければならないことは言うまでもなく,GTEC(福武書店)を用いて,調査対象の高専生の現状での英語力,とりわけ読解力についてもデータ収集の必要があった。2年目は,メタストラテジー教材を開発してリーディング指導に入るが,指導前の英語力の測定値としてプレテストのデータが収集できた。これは指導後の英語力の測定値との比較に用いられる。
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今後の研究の推進方策 |
2年目の平成29年度は,文献精査を継続し,国内外におけるストラテジー指導の実証的な研究を精査する。特に、Anderson (1991) やIkeda & Takeuchi (2003) やOzeki (2000) らの実証的研究について精査を深め、学習ストラテジー指導教材の開発の基とする。初年度の基礎研究の結果から得られた知見から,今回の研究対象の学生たちに必要なメタストラテジー指導が効率的に行えるストラテジー指導教材について計画し,開発する。学習ストラテジー指導教材の開発は、リーディング教材そのものの選定も重要になることから、自身の過去の研究(勝藤, 2014)も参考にしたい。適切なリーディング指導教材の検討もここで行う。 その後,これらの開発された教材を用いて,実際に授業の中で試行する。期間は6ヶ月を予定している。期間中は,定期的に学習者の学習ストラテジー使用の記録を行う。方法は,Lee (2007) によるカラーコーディング法による記録,学生の内省的記述による記録や個人インタビューによる記録のうちの適切なものを使用する。実験群と統制群に分けて学習ストラテジー指導の効果を測定し,学習者の学習ストラテジーを記録する。収集した記録を質的・量的の両側面から分析し考察する。また,メタストラテジーの使用が活性化できたかについて評価する。 最終年度の平成30年度は,できれば主として研究成果のまとめに費やしたいと思っている。2年目の教材開発や試行がうまく行かなかった場合は前半は予備期間としての位置づけも考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入したい洋書があったが,平成28年度の残額では不足していたので,平成29年度の科研費交付金と併せて当該図書を購入することが望ましいと判断したため。
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次年度使用額の使用計画 |
Rebecca L. Oxford (著) Teaching and Researching Language Learning Strategies: Self-Regulation in Context, Second Edition (Applied Linguistics in Action) (英語) ペーパーバック, 4,452円(税抜参考価格:2017年4月12日アマゾン)を購入する。
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