研究課題/領域番号 |
16K02907
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研究機関 | 関西外国語大学 |
研究代表者 |
山崎 のぞみ 関西外国語大学, 外国語学部, 准教授 (40368270)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 話し言葉 / 口語文法 / 擬似分裂文 / 会話の相互行為 |
研究実績の概要 |
当該年度は、英語の話し言葉に対する学習者の意識を高めるための活動開発に向けて、口語英語データを利用した会話の相互行為的言語形式の分析・記述を進めた。会話に特徴的な言語の使い方を学習者に意識させる活動の開発のためには、「書き言葉」と「話し言葉」の間の違いをさらに明らかにし、口語文法の記述を進めることが重要である。 着目したのは、会話の相互行為に係わっていると思われるthat's what...という擬似分裂文(wh-cleft)の一種である。この言語形式は、話し言葉の実例を豊富に扱っているEnglish Grammar Today: An A-Z of Spoken and Written Grammar (Carter et al. 2011)のワークブックで、話し言葉的な形式として扱われている。実際、ある大規模コーパス調査で、学術文ではまれだが会話では高頻度であるという結果が出ている。 That's what...がどのように話し言葉的かを明らかにするために、2004~2012年に放映されたアメリカのテレビドラマの会話に出てくるthat's what...形式を分析した。その結果、主に「物事の本質や意義を表す」「行動や発言、思考を確認、強調、念押しする」「発話内容が真実でないこと(の可能性)を示唆する」という発話機能を持つことが明らかになった。さらに、指示代名詞のthatや先行詞を含んだwhat節から成る明示性の低い形式は、言い換えれば柔軟な指示機能を実現できるため、話し手が自在に談話の方向性を調整するために使われている。従って状況や話者間の関係に配慮しながら会話の方向を調整したり、婉曲的・推測的に伝えたりするための形式として、that's what...は状況依存の程度が高い会話に特徴的な形式であることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、実際の話し言葉のデータを利用して、話し言葉に対する学習者の意識を高めるための言語活動・教材の開発を目的としている。そのため研究計画は、口語英語コーパスを利用した会話に特徴的な相互行為的言語現象の記述という英語学的側面と、話し言葉に気づきをもたらし意識化させる活動の考案という英語教育的側面の二本柱から成っている。 前者に関しては、話者同士の副詞節を用いた協同発話やthat's what...という形式を分析・調査することで進めてきた。これらの研究によって、リアルタイムで進む双方向的な会話の状況的要因が会話の言語特徴にどのように影響しているかを示すことができた。また研究の中で、会話の相互行為的な言語特徴として今後、調査を行いたいと考える新たな側面にも気づくことができた。 一方、後者に関しては2017年度に、話し言葉の相互行為的な言語現象に気づかせるメタ言語的な活動を扱っている教材を調査し、どのような言語特徴をどのような形式の活動で意識化させることができるかということについて考察した。しかし、この教育的側面の方の研究が今年度はあまり進めることが出来ず、今後の課題であるため、「やや遅れている」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、研究の最終段階として、話し言葉の相互行為的・即興的言語使用を意識化させる活動や教材の開発に取り組みたい。その際、本研究あるいはそれ以前の代表者の研究で扱ってきた言語特徴はもちろんのこと、口語文法に含まれるものとして内外の研究者が明らかにしてきた言語特徴も幅広く考慮する。 論点として、「口語文法の何をどのように教えるのが効果的か」「コーパスに収められた実際の会話をどのように利用するか」という2点を考えている。書き言葉と異なる話し言葉の言語特徴に学習者を気づかせ、結果的に外国語を発話することに伴うプレッシャーが軽減されるような活動の考案を目指したい。 また同時に、英語の話し言葉の特徴を記述する作業も進めたいと考えている。特に、発話の「周辺部」に着目する予定である。発話には、文法要素の揃った核となる部分の前と後に、様々な語用論的調節を行う「周辺部」と呼ばれる場所があることが指摘されており、この概念を用いて話者がどのような相互行為を行っているのかを明らかにしたい。その研究結果も、上記に述べた活動の開発につなげるつもりである。
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