研究課題/領域番号 |
16K02907
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研究機関 | 関西外国語大学 |
研究代表者 |
山崎 のぞみ 関西外国語大学, 外国語学部, 准教授 (40368270)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 口語英語 / 話し言葉 / 発話末 / 発話末のthough / 対人関係 / 導入的this / 談話機能 / 語用論 |
研究実績の概要 |
2019年度は、英語教育や英語教材で扱われることは少ないが、実際の会話では頻繁に見られる話し言葉の言語現象の調査をさらに進めた。 一つ目は発話末に関する研究である。発話末や発話頭は、中核となる発話の統語構造に統合されていない付加的な要素が現れる場所であり、話者が語用論的、相互行為的なタスクを行うための重要なスペースである。分析対象に取り上げたのは、I don't know exactly when I'll be back. It could be a while, though.のような発話に見られる副詞のthoughである。発話末のthoughが、話者間の対人関係の調整にどのように使われているかを明らかにした(『英語のスタイル』にて分担執筆)。 調査の対象としたもう一つは、「語り」における導入的thisである。会話でストーリーを物語る語りにおいて、初出の人や物事を指示代名詞thisを使って導入することがある。There's this guy. His name is …のような表現に見られ、There's a guy.と不定冠詞を使うよりもインフォーマルでカジュアルだと言われる。この導入的thisが使われやすい語彙的・文法的環境や談話的・語用論的意味について調査した(『現代英語談話会論集』第14号に執筆)。 以上のような話し言葉的言語現象は、会話教材での扱いも少なく、学習者が触れる機会が限られている。発話末の要素は、後から振り返って談話の流れを調整する役割を持っており、リアルタイムで進む日常会話では重要な言語リソースである。導入的thisは、不定冠詞の代替リソースがある以上、学習者が無理に使用する必要はないが、聞き手としてニュアンスやスタイルを読み間違えることはあり得るだろう。従って、このような話し言葉の特徴の詳細な研究は、教育や教材への応用の可能性があると言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究目的の一つである、口語英語に特徴的な言語現象が会話の相互行為の中でどのような談話的・語用論的機能を果たしているかということについての分析はかなり進めることが出来た。話し言葉文法の研究を進める中で、研究計画作成当初には考慮していなかった口語的形式や構造が見いだされ、会話のリアルタイム性や双方向性と結びつけることで、話し言葉の言語使用の解明に寄与できたと考える。 本研究では、話し言葉の特徴を明示的に教える文法教材調査も行っており、どのような特徴に気づきを与えるべきか、どのようなタスクや言語活動が可能で効果的かという点についても検証を進めている。しかし、これまで行ってきた話し言葉的言語現象の研究成果を直接的に応用した言語活動の開発は不十分であり、そのため「やや遅れている」と判断した。 また、口語英語コーパスを用いることも研究目的の一つであり、これまで成果を発表した研究では、BNC (British National Corpus)やICE-GB (International Corpus of English: Great Britain)を積極的に用いてきた。既存の口語英語コーパスで用いられている書き起こし方法や規定の調査を通して、自然な会話を書き起こすということの問題点や可能性も検討し、コーパスやコーパス利用の理解を深めてきた。しかし2019年度においては、会話の状況や人間関係を十分に考慮した上での分析の必要性があったため、コーパスではなく、コンテクストを正しく把握しやすいテレビドラマの会話を用いた。このことは研究目的の達成の上で意味はあったが、今後、最新コーパスを導入した分析・調査も進めたく、この点においても、この区分を選んだ理由である。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度の研究成果の一つである発話の「周辺部」に関する研究をさらに進めたい。英語では、周辺部現象のうちでも発話頭の研究が多くなされてきたが、thoughやthen、actuallyなど発話頭に現れる要素が、近年、発話末にも多く現れるようになったことが報告されている。発話末には、副詞類の他、付加疑問やand stull like thatのような表現、さらに右方転位構造(tailとも呼ばれる)などがある。英語教材で扱われることが増えている発話頭の談話標識などと比べて、発話末に現れる要素は使わなくても大差ない(あるいは、カジュアル過ぎるため非母語話者は過剰に使わない方がよい)として、英語教育ではあまり取り上げられていない。発話末の要素のような、なくても発話の命題的意味には影響を与えない要素が会話の中でどのような働きをしているのかという点や、その教育的可能性について調査する。 また、研究期間後半に取り組んだ話し言葉的言語現象の教材への応用について研究を進める。学習者が使えることが望ましい言語現象がある一方で、会話参加者としては知っておくべきだが、使うべきというわけではない言語現象もある。それらの現象に対して意識や気づきをもたらすことの意義や方法を考察し、コーパスを利用した言語活動の考案にも取り組む。 さらに、研究に最新コーパスを導入したいと考えている。研究目的上、自然発生的でインフォーマルな日常会話が含まれているコーパスが必須である。これまで主に利用してきたBNCやICE-GBは1990年代より以前の会話を収めているため、現代英語としてはやや古くなりつつある。2014年にThe Spoken BNC2014という、収める会話全てがくだけた日常会話であるコーパスが編纂され、アクセスし易くなっている。今後は、このコーパスを用いて、上記で述べた研究の総仕上げを行いたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
これまでの研究成果で、コーパスを用いて話し言葉に特徴的な様々な言語現象の相互行為的機能を明らかにし、話し言葉の言語使用の解明を進めることができた。さらに、学習者用文法教材を分析し、話し言葉の特徴に対して明示的に意識や気づきをもたらすのに適したタスクや言語活動の調査も行ってきた。 その中で、会話の相互行為的機能を果たす場所である「発話末」の要素の解明という新たな研究テーマや、これまでの分析の成果を教材のタスクにどのように応用したら良いかという応用面の課題にさらに取り組む必要性を感じた。そのため、期間延長を申請し、次年度に使用できる額を少し確保したために、次年度使用額が生じた。 次年度使用額は、上記の研究のための文献入手や成果発表の費用に用いる計画である。また、本研究の目的一つである口語英語コーパスの利用のためにも使用したい。現代英語の話し言葉にはこの数十年でも変化が見られ、これまでに利用していたコーパスがやや古いことを考えると、今後は最新の話し言葉コーパスを利用することが望ましい。利用予定のThe Spoken BNC2014という新しい英語の話し言葉コーパスは無料公開されているが、本コーパスを用いた最新の研究成果や知見を書籍やジャーナル、学会参加などで得る必要があり、次年度使用額はそのためにも使用する計画である。
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