研究課題/領域番号 |
16K02917
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
加藤 鉱三 信州大学, 学術研究院総合人間科学系, 教授 (20169501)
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研究分担者 |
花崎 一夫 信州大学, 学術研究院総合人間科学系, 准教授 (40319009)
Mehmet Sean 信州大学, 全学教育機構, 外国語准教授 (90751628)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 翻訳 / デ格 / 前置詞 / 対訳コーパス / 副詞として使う |
研究実績の概要 |
新聞社説の英語訳は逐語訳ではない場合の方がはるかに多いため,英語母語話者が逐語訳を用意し,意訳と逐語訳を並べるダブル対訳コーパスの構築を開始した。社説に現れる日本語原文のデ格を英語版でどう訳しているかを対象にしたものである。例えば「2016_4_2 政策的な支援で、前向きな企業の背中を押すことも大事だ。」は,英訳版ではPolicy assistance is also important to give forward-looking firms a supportive push.という訳になっている。ここでは,日本語のデ格が,英語でデ格に該当するはずの前置詞句の形で訳されていない。このような場合には,前置詞句 with policy assistanceを使った逐語訳を与えるという作業をしている。 この研究はまだ始まったばかりではあるが,それでも,日本語原文に明確な動作主主語がない場合に,英語版ではデ格を主語化するという戦略を抽出することができた。今あげた事例がその一例である。この現象は,副詞表現を使う場面で,日本語では副詞を優先する(例:「彼はたくさん本を読む」は自然だが,「彼はたくさんの本を読む」はやや翻訳口調)が,英語では,他にオプションがある場合には,逆に副詞として使うことを避ける(例:×He reads books a lot.[副詞として使用] に対し,○He reads a lot of books.[形容詞として使用] )という次の一般的傾向から説明できる。 Generalized Adverbials as a Last Resort Principle [GALRP] 「副詞を使う場合,それを副詞でない形で使うオプションが許される場合には, そのオプションが優先される。」 上の事例では,日本語ではデ格,つまり副詞句,であるものが,英語では副詞句として用いられず,そのデ格が主語として訳されている。この現象はかなり高い頻度で見られるが,その理由は,このGALRPによって自然に説明される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
この研究は,日本英文学会中部支部第68回大会(富山大学,2016年10月15日)と,言語処理学会第23回年次大会(筑波大学,2017年3月14日)で発表した。このように,2件の研究発表という成果が出ているため,言語学的な研究は順調に進んでいる。ただ,コーパス作成という作業の方はやや遅れており,総じて「おおむね順調」と言える。
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今後の研究の推進方策 |
言語学的研究としては,日本語のデ格が英訳で主語として訳されることを提示し,その説明もできた。2017年度は,例えば「記者会見で」というような「機会のデ」と,「外務省で」のような「組織のデ」について,それがどういう前置詞で表現されるかを研究していく。 意訳・逐語訳ダブル対訳コーパスの方は精力的に作業を進めていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画で見込んだよりも安価で遂行できたため。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度請求額と合わせて文献購入に充てる。
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