英語には少なからぬ数の前置詞があるが,日本語で格助詞は限られており,特にデはニ・カラ・マデに比べて非常に守備範囲が広く,デはニ・カラ・マデがカバーしない意味関係を一手に引き受けている。従って,日本語を英語にする時には,デに対してどういう英語表現を当てるのかが難しい。そこで,新聞社説に現れるデ格名詞句とその英訳版に現れる対応箇所とを比べてみるという作業をした。研究期間中に得た成果で主なものは次の3点である。 1.日本語原文に明確な動作主がない時,プロの翻訳家はデ格の主語化という戦略を用いる。それは,副詞使用に英語では日本語には適用されない制限があることが寄与している。一方,そのような場合は,翻訳ソフトには課題があるが,主語を出さない受動化のような解決策が考えられる。 2.「会議」のようなデ格デキゴト名詞を時間表現で使う場合,英語に訳す時にどの前置詞が使われるかについてはまとまった研究はなさそうであり,辞書類での言及も乏しい。本研究で,デキゴトを期間として見る時にはduringを使い,期間として見ない時には,デキゴトがある程度長く続くならinを使い,そうでない単体のイベントならatを使うということが分かった。 3.以前の研究で,デは副詞的関係を表す最終手段(他の副詞的格助詞が当てはまらないものは全部デで表す)という見方を提唱した。しかし本研究で,「ことで合意する」のように副詞的とは言えないデの用法があることから,それをさらに進めて,『デは最終手段としての格助詞(他の格助詞が当てはまらないものは全部デで表す)』であるということが分かった。また,Google翻訳では,[内容]のデはそれが節である場合には概ね正しく訳すが前置詞選択は苦手であることを確認した。
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