研究実績の概要 |
本研究は, 現行の日本の学校外国語教育の目的がスキル獲得に終始するコミュニケーション能力の育成であることを批判的に捉え、1990年代の第二言語習得研究分野の中で指摘されてきた相互行為能力観に基づくこれからのコミュニケーション能力を再定義するため、実際の教室実践の中での学習者間、あるいは指導者と学習者間のやりとりの分析を行うことを目的としている。 一年目である平成28年度は, 理論的基盤の歴史的な流れを文献から整理し、相互行為能力観の背景理論に基づいて代表者の勤務大学における大学生と留学生との交流活動を分析した論文(「言語規範の変容を促す言語学習のリソース 社会文化的アプローチによる「インタビュー誌」の分析から」(『リテラシーズ』20 pp.56-70.,2017.2月公開)を共同執筆した。これによって, 相互行為能力とは, 個人に閉じられた能力ではなく, 個人の能力はその場に居合わせたすべての参加者の能力である理由を実証した。 また, 教室実践に関しては, 公立の小学校2校を協力校とし, 担任2名の授業観察および担任教師からのインタビュー等から年間を通しての視覚および音声データを得ることができた。データは学級担任および学校長と相談の上, 一校は各自マイク装着と授業録画を, もう一校は各班にICレコーダーと遠景からの授業録画を行い, 全授業が終了した後, 録画および音声データを担任教師とともにみながら振り返りインタビューを行い, これも録音・録画をした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画の通り, 理論的基盤である第二言語習得理論における言語能力観の変遷についての理論整理と最新の動向を抑えることができ, その理論に基づいた授業実践の分析を論文として発表することができている点, また, 小学校外国語の実践については協力校との関係を構築し, 授業実践を年間を通して観察することができ,データ収集もできている点によって, 本研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
研究期間の2年目の平成29年度, 代表者の勤務校を移動することになったため, 協力校との日常的なコンタクトが困難になったため, 平成29年度からの勤務校の近くで新たに協力校を得ることを計画している。これが可能になれば, 一年目の協力校でのデータと比較し, さらに実践分析を深化させることができると期待する。 また, 昨年度発表した論文は小学校外国語の実践内容を分析したものではないため, 本年度は昨年のデータをもとにした小学校外国語に関する実践分析で成果を得たいと考えている。
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