本研究は、現行の日本の学校外国語教育の目的が、スキル獲得に帰しているコミュニケーション能力の育成であることを批判的にとらえ、1990年代の第二言語習得研究分野の中で指摘されるようになった相互行為能力(Interactional competence=IC)観に基づくこれからのコミュニケーション能力を再定義するため、実際の教室実践の中での学習者間、あるいは指導者と学習者間のやりとりの分析調査を行うことを目的とした。 そのために、①特に1990年代以降のICに関する文献や提唱者からのインタビュー等を基に日本の学校外国語教育に取り入れるべきコンテンツの整理を行い、②その概念に基づく教室実践データの中から参与者のIC活用場面の分析を行った。分析方法は、参与者の会話分析およびインタビュー等マルティモーダルのデータによる質的調査を試みた。これにより、これまでのスキル獲得重視の個にとじられた伝達能力をモデルとするコミュニケーション能力ではなく、「相互行為能力:Interactional competence=IC」(Young、2011)の育成への転換が示唆された。本研究の意義としては、①コミュニケーション能力観に関する概念整理を基に今後の外国語教育の目的再構築のための基礎知識が得られたこと。②実際の外国語授業の教室実践において参与者がどのようなコミュニケーションを展開させているかを質的に分析することにより、日本の学校教育で展開される外国語プログラムの内容を言語学的・相互文化的視点から検討することの有益性に関する情報と知見が得られたことがあげられる。
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