通訳の中でもより正確性と忠実さ(法的等価)が要求される司法通訳では、原発言者のメッセージの内容を別の言語の聞き手に確実かつ効果的に伝わるように表現することの難しさが存在する。殊に法廷通訳では、量刑と心証に影響する言語の等価をはからなければならず、厳格なまでの正確性が要求される。 本研究では、研究の前提として、海外における司法通訳に関する認識を知って参考とするため、2018年度にブルガリアで開催された欧州司法通訳翻訳者協会(European Legal Interpreters and Translators Association)の年次大会に出席し、またオランダ・ブルガリアで法廷通訳者にインタビュー調査を行うなど、今後日本にも影響を与えると考えられるISOの司法通訳規格に関する動向の調査を実施した。 そして、国内における調査では、法廷通訳人及び法律家が、法廷通訳についてどのような認識を持っており、法律家は法廷の現場において実際にどのような発話をしているか、また法廷通訳人はどのように通訳をしているかを分析検討するため、法廷通訳経験者と弁護人へのアンケート調査から、両者の法廷通訳に対する認識の実際と両者の認識のずれを検討し分析した。その結果、法廷通訳人は、捜査段階での通訳と法廷における通訳との間に通訳に対する理想と現実とで若干の相違を感じており、さらに、法廷における法律家の話し方に満足していないという結果が得られた。本調査の対象者である通訳人は、従来のコミュニケーションにおける「導管モデル」と、「通訳人は透明人間であるべき」という理念に影響を受けながらも、述べられたことのみをそのまま訳出することでは不十分だと感じている人も多いことが分かった。
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