研究実績の概要 |
本研究課題では,第二言語読解の個人差要因(動機づけ・学習観・方略使用)について,社会環境的要因(家庭・学校・地域社会・社会通念)との関係から考察した。社会環境的要因を分析する枠組みとして生態学的アプローチ(Bronfenbrenner, 1979)を援用したが,人間発達を社会文脈的に階層構造として理解することが提唱された。具体的には,人間発達を4つの生態学的システム(マイクロシステム・メゾシステム・エクソシステム・マクロシステム)の中で捉え,各システムのレベルで起こる発達が相互作用的に影響を及ぼすと仮定した。この仮説を本研究課題に適用すると,マイクロシステムとは,学習者が経験する具体的な行動(方略使用)や学習経験の中で形成される動機づけや学習観と考えられる。メゾシステムは,学習者が直接的にかかわり影響を受ける家庭や学校などの環境を指す。エクソシステムは,学習者を積極的な参加者として含まないが,間接的な影響を与えうる地域社会などの環境を指す。マクロシステムは,社会・文化レベルで共有される認識(社会通念など)や対照的な信念体系で,例えば,共通言語としての英語の必要性や早期英語教育の是非などがこれに当たる。生態学的アプローチを採用することによって,マイクロシステムとしての第二言語読解の諸要因について,社会環境的要因(上位3システム)と統合的に考察できた。 質問紙調査で得られたデータは,主に構造方程式モデリング、分散分析,クラスター分析を組み合わせて分析を行った。結果の概要はマイクロシステムとしての第二言語読解は社会的文脈の影響を受け,とりわけ日本社会ではマクロシステムの影響が大きいことが分かった。この結果は,第二言語読解研究に社会的文脈を取り入れることの妥当性,第二言語読解の包括的理解のために社会環境的要因を考慮する必要性を示す。
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