研究課題/領域番号 |
16K02937
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研究機関 | 東京農業大学 |
研究代表者 |
三浦 愛香 東京農業大学, 農学部, 准教授 (20642276)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 中間言語語用論 / コーパス言語学 / 発話行為 / 学習者コーパス / 英語教育 / 第二言語習得論 / コーパス・アノテーション |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、日本人英語学習者の「語用論的能力」の習得段階を弁別する言語特徴(基準特性)を抽出することである。これまで小規模研究の質的分析が主流であった語用論的能力の研究の分野において、大規模な言語データである学習者コーパスを活用した検証を実施することで、日本人英語学習者の語用論的能力の発達推移を明らかにすることを目指す。具体的には、The NICT JLE Corpusに含まれる買い物ロールプレイにおける「要求」の発話行為を抽出し、習得段階別にその傾向を観察する。多くの先行研究によって活用されてきたBlum-Kulka, House & Kasper (1989)のコーディング・スキームを改良し、「要求」の発話行為にて使用される言語項目を抽出する。学習者が使用した言語特徴を手掛かりとして、「直接的なストラテジー」(命令文や要望の動詞 “want”等を使用)と「慣例的な表現を用いた間接的なストラテジー」(助動詞の “can”や “could”等を使用)に「要求」を分類したところ、習得段階が上がるにつれて、「直接的なストラテジー」が減少し、「間接的ストラテジー」の使用が増える結果が得られた。当該年度は、Blum-Kulka(1989)らのコーディング・スキームに加え、以下の研究課題に基づく多重・多層構造のアノテーション・スキームを構築することにより、習得段階別に学習者の語用論的能力の解明に努めた。 課題1.「要求」の発話行為が生じる状況を詳細に分類し、その状況ごとに言語項目を抽出した。 課題2.学習者が発した「要求」のポライトネス(発話が社会的に適切か)の度合いを測定できるか、複数の英語教員(母語話者および日本人)を対象に判断調査を行った。 課題3.話し言葉に特有な「言い直し」や「繰り返し」、「言い換え」などの修復の現象を、「要求」の発話行為にどのように観察されるかを調査した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
課題1.「要求」の発話行為の状況別に言語機能を分析:本コーパスは、インタビューテストから成るが、初級・初中級学習者は、「品物の購入」、中上級学習者は、既に購入した品物の「返品・返金交渉」のタスクが与えられるため、学習者の習熟度によって「要求」の発話が生じる状況が異なる。発話を目視で確認していき言語機能ごとに分類した。結果、中上級学習者64名の発話の91.5%が「店員に何かを依頼する」機能であった。初中級学習者64名及び初級学習者67名については、「購入の意思を表明する」機能が26.0%及び31.3%、「品物について述べたり、聞いたりする」機能は48.2%及び49.2%であった。 課題2.「要求」の社会的適切性(ポライトネス)を判断できるか:学習者の発話が社会的に適切かどうかの基準は、話し手や聞き手が属している社会の規範や規則や状況によって異なるだけではなく個人でも見解が異なることから、学習者の発話におけるポライトネスの度合いを計測可能かを探った。日本の大学の英語教員(母語話者および日本人各10名)に対し、異なる状況ごとに様々な言語項目を使った要求の発話のサンプルを提示した。ケンドールの一致係数を計測したところ、全教員の一致度が十分高いとは言えないことが判明した。特に、日本人教員の一致度が低かった。発話にポライトネスの情報をアノテーションすることは困難と判明した。 課題3.「要求」の発話行為の「言い換え」の修復現象について:学習者の発する「要求」において、自身の発言を「言い直し」たり、「繰り返し」たり、相手の質問を「おうむ返し」したり、「言い換え」する発話の修復の傾向を、習得段階ごと調査した。中上級者の51.0%、初中級者は55.7%、初級者は42.5%の「要求」は修復のない発話で、残りの半数は「繰り返し」と「言い直し」であった。修復の比率は習熟度が上がると下がると判明した。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は以下の研究を実施する。 課題4.学習者に特徴的な言語特徴の抽出:「文法の正確さおよび談話の適切性(Grammatical accuracy/Discoursal acceptability)」 の観点から、学習者の「要求」を分類する。適切性は、「高」と「低」の度合いに分類され、「高」は文法や語彙だけではなく対話の流れから判断して適切である発話にアノテーションされる。一方、「低」は、「①首尾一貫している」、「②首尾一貫していない」、「③トピック・コメントの構造を持つ」、「④日本語の使用」の4つに分類される。①は、文法や語彙のマイナー・エラー(動詞の活用や複数・単数形の誤りや前置詞の脱落)を含むが、対話の流れから判断して問題がないものを指す。②は、試験官との対話が成立していないものである。さらに、「言語表現としては単体で意味を成す」ものと「言語表現としても成り立たない」ものに分類される。③は、日本語の影響を受けたトピック・コメントの構造を持つ発話で、"Color is brown."(「茶色のジャケットが欲しい」の意図)などが例として挙げられる。 課題5.研究代表者および第三者(研究補助者)によるアノテーションの再確認および修正:「分析者内信頼性」と「分析者間信頼性」を計測し、アノテーションを完成させる。前者では、研究代表者が既にアノテーションをしたデータの一部を再度分析し直し、その一致度を計測する。後者では、研究協力者一名に、要求の発話行為のコーディング方法についてトレーニングをし、データの一部のアノテーションの再確認をしてもらい、さらに構築したアノテーション・スキームを基にコーディングをしてもらう。上記を通し、一致度が低いアノテーション項目については、修正を施す。
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