研究課題/領域番号 |
16K02937
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研究機関 | 東京農業大学 |
研究代表者 |
三浦 愛香 東京農業大学, 農学部, 准教授 (20642276)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 中間言語語用論 / コーパス言語学 / 要求の発話行為 / 学習者コーパス / 英語教育 / 第二言語習得論 / コーパス・アノテーション |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、日本人英語学習者の「語用論的能力」の習得段階を弁別する言語特徴(基準特性)を抽出することである。前年度は、話し言葉の学習者コーパスのThe NICT JLE Corpusより買い物のロールプレイの発話全ての機能を特定したが、平成29年度では、言語機能の他に「文法の正確さ及び談話の適切性(Grammatical accuracy/Discoursal acceptability)」の度合いについてもアノテーション(言語注釈)を施した(課題4)。まずは、発話を「高」と「低」に分類した。「低」の分類では、さらに「首尾一貫している(coherent)」、「やや首尾一貫性に欠ける(slightly incoherent)」、「首尾一貫していない(incoherent)」、「日本語」の4つに分類した。「低」の項目は、語彙的・構造的・意味的に不完全または不適切であったり、母語の影響を受けたトピックコメントの構造(例:"Color is brown.")であることも細分類した。結果、「高」と「首尾一貫している」と分類された発話は、CEFR B1(中級)レベルの学習者では約98%、A2(初中級)レベルでは約96%、A1(初級)レベルでは約93%と判明した。
なお、前年度までにアノテーションを施した「要求の発話行為」(①)及び「全発話の言語機能」(②)、そして今年度取り組んだ「正確さ及び適切性」(③)について、構築したアノテーション・スキームの再現性と信頼を追及するため、研究補助者に協力を得て、一部のアノテーションの再確認および修正と、アノテーションの再現による分析者間信頼性を測定した。結果、①は92.38%、②では83.03%、③は78.1%の一致率が得られた。なお、③については、補助者との打ち合わせを重ね、アノテーション・スキームの改良を試みたが、他項目より一致率が低かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
課題4.本研究では、エラーが含まれる学習者の発話を体系化するために、「文法の正確さおよび談話の適切性」を測るアノテーション・スキームを開発し、対象となる学習者言語の発話全てにアノテーションを施した。第三者の研究補助者及び研究代表者により、スキームの妥当性を追及した。具体的には、多数の用例を確認し、修正を繰り返してスキームを再構築した。結果、発話は主に以下のように分類された:(1)正確さ・適切性が「高い」もの、(2)正確さ・適切性が「低い」もの。さらに、(2)は、「(文法構造および語彙的にやや不備があるが)首尾一貫しているもの」、「(文法構造および語彙的に誤りがあることにより)やや首尾一貫性に欠けるもの」、「首尾一貫していないもの」、「日本語の使用」に分類された。CEFR A1とA2の学習者において統計的な有意差はなかったが、A2とB1には有意差があった。レベルが上がると「高い」または「やや不備があるが首尾一貫している」発話が増加する。さらに、A1およびA2レベルは、「高い」発話の大多数が「相手の発話を確認する」(相手の発話をまねたり繰り返したりするような機能を持つ)であり、B1レベルと異なる傾向を示した。
課題5.アノテーションの信頼性と再現性の確認について、研究補助者とはアノテーションのトレーニングや打ち合わせを重ね、(1)アノテーションのランダム・チェック(研究代表者が全アノテーションの49.9%及び補助者が21.77%をチェックし、修正の割合は4.2%)及び(2) アノテーションの分析者間信頼性の一致度(研究実績の概要を参照)を計測をした。「文法の正確さおよび談話の適切性」については、一致度が低いものは、代表者と補助者が許容する正確さや適切性にずれがあることが判明し、「要求の発話行為」と「全発話の言語機能」では、項目の定義の曖昧さや説明・訓練不足が浮き彫りになった。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度を研究の総括として位置づけ、以下の課題に取り組む。 課題6.「要求の発話行為」、「発話の修復」、「全発話の言語機能」、「文法の正確さおよび談話の適切性」のアノテーション・スキームを単独で、またクロス・スキーマティックに分析することにより、日本人英語学習者の習得段階を弁別する言語項目(基準特性)を体系的に示し、語用言語学的能力の発達推移の概要を示す。中間語用論の先行研究をコーパスがどう補完できるかを示し、社会語用論的能力の推察の可能性(平成28年度課題2)も探る。また、話しことばの学習者コーパスを語用論的研究に応用する上での難点を理論的(①)また技術的(②)な観点から総括する。①は、語用論研究では、言語項目と言語機能の不一致が多く生じるため、表層的な言語項目のみしか抽出できないコーパス分析との融合について、②は、分析に使用したUAM CorpusToolは、クロス・スキーマティックに言語項目を抽出する際に、研究代表者が意図しなかったバグが生じている点に着目し、それを回避する方法を探る。 課題7.前年度課題5の続きとして、分析者間信頼性の一致度が低かったアノテーションの定義や名称について再検討し、複雑な構造や下位分類項目が必要のないアノテーション・スキームを簡潔にする。 課題8.The NICT JLE Corpusの「買い物」のタスクだけではなく、同じような購入・返品・返金交渉のタスクが含まれる「電車」のタスクなどにも、課題7で構築したアノテーションが適用できるかを検証し、最終的に、英語学習者の「要求の発話行為」を分析できる汎用度の高いアノテーション・スキームを提案する。
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