本研究の目的は、日本人英語学習者の語用論的能力の習得段階を弁別する言語特徴(基準特性)の抽出である。NICT JLEコーパスの買い物のロールプレイデータを用い、CEFR A1レベル68名、A2 114名、B1 66名の3つの習得段階別に要求の発話行為に着目した。具体的には、発達途上にある学習者の語用論的特徴(①全発話の言語機能、②全発話の正確さ及び談話の適切性、③要求の発話行為で使用される言語項目)を抽出する多層アノテーション・スキームを複数開発し、文脈を目視で確認し、言語情報を付与した。統合的結果は以下である。A1及びA2は購入タスク、B1は返品・交換交渉のタスクが与えられていたことから、発話の言語機能はタスクの影響を大きく受けた。A1及びA2の要求は、購入の意思、試着や試食等の依頼、購入したい品物の詳細を伝える要求の機能が大多数を占めていた。前者2つにおいては、wantなど直接的要求の割合も多いが、"I will buy it."や"Can I try it on?"等、慣例的に間接的な要求の言語項目を用いた定型表現も既に習得している傾向にあり、前述②の度合いも高かった。しかし、後者においては、自ら発話を構築する必要があるため、単語のみの発話や“The color is black.”といった母語の影響を受けた構造等直接的な言語特徴が観察され、②の度合いも低い。また、A2になると直接的であったり、不適切な構造を持つ発話の頻度が下がる傾向にある。B1の発話は、返品や交換の依頼の機能が大多数で、A1及びA2に比べ、慣例的に間接的な要求だけでなく、要求の度合いの強さを調整する言語項目の使用の頻度や、②の度合いも有意に高かった。しかし、ポライトネスの観点から不適切だと判断されたり文法構造的に不適切な要求も少数であるが観察され、必ずしも高い語用論的能力を示すとは限らないといえる。
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