研究実績の概要 |
本研究の目的は,日本の小中学生が英語コミュニケーションの中で口頭産出する言語データを文法習得の観点から分析し,文産出能力の発達プロセスを解明することであった。平成29年度までにコーパス化した小中学生48名分の英語発話データ(総語数12,174)について,(1)統語構造の出現を習得基準として横断分析した結果,第二言語の発達段階の普遍性を予測する処理可能性理論(Pienemann, 1998)の発達予測に一致すること,(2)新たに提案されたプロミネンス仮説も支持するが,英語圏に暮らす日本語母語の子どもの統語発達の事例(Di Biase et al., 2015)に比べて産出する統語構造の多様性が少ないことが明らかになった。さらに,(3)英語発話における構造の出現を習得基準とする処理可能性理論の発達段階と統語的・語彙的複雑さとの関連性,及び(4)英語学習開始年齢とデータ収集時の年齢が統語発達と語彙発達に与える影響を調査した。 平成30年度は、(3)の研究成果について国際学会PALAで、また、(4)については,EuroSLAで発表し,そこで得られた助言や提案をもとに,英語スピーキングにおける統語の発達(平均発話長・統語発達段階)と語彙の発達(動詞のタイプ数・語彙の多様性)に与える要因について,英語学習開始年齢,データ収集時の年齢,認知的能力(選択的注意力・ワーキングメモリ)を変数として,小学生24名と中学生24名を別グループに分けて再分析した。その結果,小学生グループでは,英語学習の開始年齢が統語発達と語彙発達に最も影響を与えるのに対し,中学生グループでは,統語発達には認知的な能力が最も影響を与え,一方,語彙発達にはデータ収集時の年齢が最も影響を与えることが明らかになった。
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