研究課題/領域番号 |
16K02955
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
阿部 始子 東京学芸大学, 教育学部, 准教授 (00449951)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 小学校英語 / 国際理解教育 / カリキュラム提案 / 教員養成 / A. S. Neillの自由教育 / アクションリサーチ |
研究実績の概要 |
本研究では、国際理解教育を学習内容の中心に据えた小学校英語実践研究を通して、①子どもたちの英語スキルを伸ばしながら、多文化社会の中で共生できる人材の素地を育む国際理解教育を基盤とする小学校英語教育のカリキュラムを提案すること、②教員を目指す学生及び現職小学校教員に役立つ授業研究のためのテキストを発行することを主目的としている。 2016年度の計画は、①のテキスト作成に向けて、A)「南アルプス子どもの村小学校」での授業実践、アンケート調査、授業研究、及びB)イギリスSummerhill Schoolの現地調査」であった。 A)については、当初計画から児童の実態を踏まえて、授業内容に変更を加えたものの、ほぼ計画通り4つユニットの授業を実施した。授業をほぼ毎回ビデオに録画し、それを文字に起こした授業ジャーナル、子どもたちの学習成果をまとめたポートフォリオ、リスニングクイズ・アンケート調査(全2回)、発表のまとめ、担任教師や子どもたちとのインタビュー、など様々なデータを収集できた。国際理解教育と小学校英語を結ぶ目的で作成されているカリキュラムは少なく、このような質的なアプローチによる授業研究は皆無であるので、その意義は大きいといえるだろう。 B)については、Summerhill SchoolのOpen Dayに訪問することができ、世界中から視察が来ている中で、在籍生徒による詳細な学校案内と重要な特色である全校ミーティングへの参加、校長(Ms. Zoe Neill Readhead)との質疑応答、副校長(Mr. Henry Readhead)への2時間以上にわたるインタビューなどの研究活動を行うことができた。国際理解教育の基盤である民主主義を教育理念とした教育実践を直接見聞し、また学校づくりの理念を学校経営者から直接うかがったことで、実践上の大変重要な示唆を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2016年4月~2017年3月までの間に、ほぼ計画通り4つユニットの授業(「世界の子どもたち」Children around the world, 「障害と共に生きる」Live with challenge, 「食べ物はどこから?」Food for thought, 「これが私!」This is me!)を実施した。週1回45分の授業をほぼ毎回ビデオに録画し、それを文字に起こした授業ジャーナル、子どもたちの学習成果をまとめたポートフォリオ、リスニングクイズ・アンケート調査(全2回)、発表のまとめ、担任教師や子どもたちとのインタビュー、など様々なデータを収集し、定性データ分析ソフトNVivo11を使って分析を行った。 その成果は、異文化コミュニケーション学会第31回年次大会(2016年9月:東京)にて「国際理解教育を基盤とした小学校英語教育を推進するために―新しいカリキュラムの提案に向けて-」というタイトルで発表した。また新英語教育研究会関東ブロック集会2017(2017年1月:山梨)にて「『障害と共に生きる』をテーマに―国際理解教育と小学校英語教育を結ぶ試みー」というタイトルでワークショップを行った。学術論文としては、日本児童英語教育学会(JASTEC)紀要第36号(2017年度発行予定)に「国際理解教育と小学校英語教育を結ぶカリキュラム構築を目指した探求的実践(Exploratory Practice)―質的研究手法を活かして―」というタイトルで掲載予定である。 本研究は、次期学習指導要領の「世界とどう関わるか」に重要な示唆を与えうる国際理解教育を踏まえ、大きな変革期にある小学校英語に対応しうるカリキュラム作成や効果的な教員研修のために、適切な方向性と具体的な事例を示すことができるという点で、非常に意義があると考える。 以上のことからほぼ順調であるという事が言えるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
2016年10月に行ったイギリスのSummerhill Schoolの現地調査の成果は、日本国際理解教育学会第27回研究大会(2017年6月)で「国際理解教育の実践を支える教育理念とは-Summerhill Schoolと民主主義―」というタイトルで発表する。また2017年2-3月に実施した「これが私!」This is me!の授業研究の成果は、第17回小学校英語教育学会兵庫大会(2017年7月)にて「自己表現活動の組み立て方と評価の視点を探る質的授業研究―授業ユニット“This is me!”を題材に―」というタイトルで発表する。この発表をもとに、同じ小学校英語教育学会が発行するJES Journal Vol.18にも学術論文として投稿する予定である。 教員を目指す学生及び現職小学校教員に役立つ授業研究のためのテキストは本年度中の発行を目指す。第1部は大学の初等教員養成課程における「外国語の指導法」の授業を想定したシラバス案を、第2部は現職小学校教員に役立つ小学校英語科(高学年)のカリキュラム・指導案及び授業研究手法を掲載する予定である。まず、第2部の一部を、教材としてすぐに使用できる付属CD-ROMをつけて、東京学芸大学で実施される公開講座「英語で世界について考える小学校英語の授業(1)(2)」(8月2-3日)において受講者に配布し、フィードバックを受ける予定である。このフィードバックを受けて修正を重ね、本年度中には第1・2部を発行する予定である。 2018年度には、この報告書を学会やワークショップ、公開講座といった教員研修の場で普及させ、フィードッバックを受け、修正を加えたものを、完成版として発行する予定である。
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