研究課題/領域番号 |
16K02971
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研究機関 | 愛知県立大学 |
研究代表者 |
池田 周 愛知県立大学, 外国語学部, 准教授 (50305497)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 小学校外国語教育 / 音韻認識 / 読み書き技能習得 / リテラシー習得 |
研究実績の概要 |
研究期間3年目の平成30年度は、英語の初期リテラシー習得のレディネスとなる音韻認識を育てる指導を、国語科のローマ字学習と関係づける意義の検討を主課題として研究に取り組んだ。まず、ローマ字指導に「音韻認識を高める指導」を組み込む可能性を見極めることを目的として、前年度の小学校2学期後半から3学期にかけて実施した予備調査の結果分析と考察を行った。この調査は、小学校第3学年「国語科」のローマ字学習において、初めの2時間を用いて児童に「文字の音」の存在に気づかせる指導を行い、一般的な「文字をその名称で参照しながら、2つの文字で1つの仮名文字が表されるという説明」を通して学んだ児童との間で、ローマ字学習後の音韻認識の違いをテストで明らかにすることを試みたものである。 結果から、ローマ字学習を通して調査群の児童は、語の「はじめ」または「おわり」にある子音の音がターゲット音と同じかどうかの認識、およびターゲット音が語のどの位置にあるかを特定するタスクにおいて、より優れていたことが分かった。特に、モーラ(母音+子音)を基本的音韻単位とする日本語の母語話者には認識しづらいとされる「語のはじめ」の音素認識能力が高まっていたことは指導の成果と判断できる。これらは小学校第3学年の児童に対しても、音韻認識を高めるアプローチが有効であることを支持するデータとなった。同時に、ローマ字学習の中で児童は、音韻認識と文字の音の理解を生かして音声を記号化せねばならないため、ローマ字指導に音韻認識指導を組み込むためには、「書く」段階に接続する指導の方向づけも必要であると分かった。指導で扱う音素のタイプやタスクの種類に加え、他教科の学びを含めた総合的な「児童の学び」の理解に基づいて、ある程度は柔軟に組み替えできる「段階的なステップ」の形で音韻認識指導プログラムを構成する意義が認識されたことも重要な研究成果となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は、本研究プロジェクトの具体的課題のうち、「1・2.音韻認識に関する理論的基盤の整理」および「4.把握や操作が困難な音韻単位や、母語の影響が見られる特徴のデータ化」を継続しながら、「5.日英語の音韻構造の違いや、ローマ字指導との関係づけを考慮しながら、日本語を母語とする小学生向け指導に適した内容とタスクの考案・整理」を中心に深めることができた。 新小学校学習指導要領では中学年「外国語活動」でアルファベットの大文字と小文字の形の認識と名称の理解、高学年「外国語」で文字の音への気づきを扱う。音韻認識を高める指導が、音声言語への慣れ親しみを経て、文字言語の導入までのタイミングで行われることを考慮すれば、高学年で文字には音があることに気づくまでに、音声言語が文字に対応する最小単位である音素のレベルで区切れることへの認識を育てることが望ましい。また、個々のアルファベット、あるいはいくつかの組合わせが、音声言語を構成する様々な単位で区切られた「音」に対応することを理解するには、アルファベットを用いて言語を表記することを最初に学ぶ「ローマ字学習」のタイミングが適切なのではないかと考えられる。 本研究プロジェクトを通して構築する音韻認識指導プログラムは、小学校カリキュラムの中で実践できるものでなくてはならないことから、他教科との連携も重要である。これらの点について、当該年度の研究を通して、提案してきた「国語科のローマ字学習を通して音韻認識を高めるアプローチ」の小学校中学年での導入可能性を裏付けることができたことは一定の成果であった。同時に、音韻認識プログラムをローマ字学習と関連づけるためには、ある程度の「音を書き取る」活動をプログラムに含める必要性を認識し、これを4年目に向けた課題として設定し、必要なデータ収集を開始した。全体的な研究の流れとしては、おおむね順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進に向けては、まず前年度に認識した「音韻認識プログラムを、音の書き取り段階まで発展させる可能性」の検討から開始する。音韻認識は「音声言語を構成する様々な単位の音に対する敏感さ」であり、音を操作する技能である。あくまでも、文字導入の前段階で高めておく資質・能力と位置づけてきたものの、小学校カリキュラムの中で、外国語教育での文字との慣れ親しみに先立ち、国語科のローマ字学習で児童がアルファベットに触れることからも、「文字はことばを視覚的に表すもの」であることを適切に生かした音韻認識指導のあり方を検討する必要が認識された。そのため、音韻認識指導のどの段階で、児童に「音を書き留める」活動を取り組ませることが可能かを考察するために、まずその研究手法構築として予備調査を行っている。すなわち、公立小学校2校で第3学年国語科のローマ字指導に「文字の音に気づかせるアプローチ」を導入し、その後の外国語活動や短時間学習に「子音の音」への意識を高める活動を組み込む実践を行った。その後、日本語で用いられる外来語と対応する英語の単語を用いて「聞いた音を書き取る」テストを行った。この結果に現れた児童の音韻認識の特徴と、実践期間中の児童の気づき、指導記録から本アプローチの有効性とローマ字および英語の初期スペリング指導のあり方、さらに音韻認識指導プログラムに「文字との関係づけ」をどのタイミングで組み入れるかを考察できると予測されるが、より十分なデータ量とするためにも大規模調査へと発展させる必要がある。 さらに、研究の最終目的である「音韻認識指導プログラム」構築に向け、冊子体の指導案と教材を指導ステップごとに整え、パッケージとして具体化していく作業を進めねばならない。プロジェクトのまとめの段階として、上述の調査に基づく検討結果を適宜指導ステップに反映させながら、プログラム公表に向け準備を整える。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度末の時点で「次年度使用額」が生じたのは、主として以下の理由のためである。1.当該年度後半に実施した「公立小学校2校で第3学年国語科のローマ字指導に「文字の音に気づかせるアプローチ」を導入し、その後の外国語活動や短時間学習に「子音の音」への意識を高める活動を組み込む実践調査に向けた教材と確認テスト開発に時間がかかり、結果として小規模の実施となってしまった。そのため、より大規模なデータ収集が翌年度以降にずれ込んだこと。2.英語母語話者対象に開発された音韻認識教材の収集に、上記1などの調査の進行と重なり十分に取り組むことができず、その検討と日本語を母語とする英語学習者用に改訂する作業を含めて遅れていること。 「次年度使用額」および平成31年度分として請求した助成金は、上記「次年度使用額が生じた理由」の1に関して、大規模かつ長期的に実践調査を行うために、その実施経費、結果の分析とデータ化のために必要なソフトウェア購入に使用する。また2に関して、今後「音韻認識プログラム」を具体的に指導案と教材の形でまとめていくためにも、英語母語話者用の教材は必須の資料であるため、その入手のための経費となる。さらに、既に整いつつある指導プログラム構成について、国内外の学会発表と論文執筆を通して公表するためにも使用する。
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