研究課題/領域番号 |
16K02972
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研究機関 | 文教大学 |
研究代表者 |
中山 夏恵 文教大学, 教育学部, 准教授 (50406287)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 異文化間教育 / 小学校英語 / 教材 / 活動例 / ことばと文化の複元的アプローチ参照枠 / 言語教師のポートフォリオ |
研究実績の概要 |
本研究は、小中学校の英語授業において言語能力に加え、異文化間能力(IC)を育成する指導を推進するため、指導事例集の開発を目的としている。 29年度は、日本のIC教育の現状について理解を深めるため、まず、小中学校の新学習指導要領に含まれるICに連なる観点について検討した。その結果、特に「学びに向かう力,人間性等」にかかる目標や、「深い学び」という授業改善の視点にICに連なる要素が含まれることが明らかになった。 また、移行期用に開発された小学校英語教材『We Can!1&2』に観察されるIC要素の分析を行った。その方法としては、前年度に行った『Hi, Friends!』のIC要素分析と同様の手法を用いた。現在は、指導要領改訂の結果、教材間にどのような変化が観察されるか、IC要素の観点から比較分析を進めている。 加えて、小学校英語指導者のICに対する意識を調査するためアンケートを実施した。小学校において異文化を指導する際には、児童の発達段階を考慮することが重要になる。そこで、注目したIC要素が、どの学年において育成することが妥当であるか5段階にて回答を依頼した。その結果、すべての学年において育成が妥当とされる要素として「文化への興味」「他者への共感」「多様な文化の存在の知識」が挙がった。一方で、育成が難しい項目としては、「多様性の利点や欠点を議論する」「自・異文化についての判断を保留する」などが挙がった。聞き取り調査の結果、アンケートで用いられていた用語に関する課題や、各IC要素のイメージし易さという要素が結果に影響を与えている可能性が示唆された。 また、指導事例集を開発するために、小中学校の現職の英語指導者の先生方と共に研究会を発足した。12月に第1回研究会を開催し、目標の共有を行った。これに並行して、複数の学校を訪問し、ICを促す授業の実際について理解を深めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度実施予定であった「小学校において指導可能なIC要素」を特定するアンケートについては、本年度に実施することができた。小規模の調査ではあったが、被験者がいずれもICについて実践等を行っている現職の指導者中心であり、その後に聞き取り調査も行ったため、IC指導の現状及び発達段階に沿ったIC要素について、一定の理解が得られた。しかし、アンケート調査にかかわる一連の作業の遅れから、当初は29年度中に実施する予定をしていた「中学校において指導可能なIC要素」を特定するアンケート実施が未だ実施できていない。現在、アンケートを実施した結果浮上した用語に関する不備等を精査しており、新年度には、一部修正した内容で実施する計画を進めている。
また、29年度中に計画していた指導事例集開発のための研究会は、新指導要領の分析や新しい英語教材("We Can!"1&2)の分析に時間を要したことから、第1回目を12月に実施した。そのため、29年度中は、指導事例作成の作業を十分に進められなかった。しかし、小学校の英語指導者を中心に研究協力者が得られ、研究会を実施する体制が整ったため、30年度には、定期的に開催していくことを計画している。
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今後の研究の推進方策 |
30年度は、本科研の最終年度になるため、日本におけるIC指導の現状と課題を総括すると同時に、それらを踏まえた指導事例集の提示を行いたい。
まず、指導事例集の開発に際しては、今までの過去に作成・収集したものを整理する。加えて、本年度に発足した研究会で定期的に指導事例の開発を進める。研究会では、参加者である小中学校の英語指導者から指導事例を提案していただき、それらがどのIC要素を促しうるか、IC育成の観点から議論を進めることを計画している。また、ここで作成された指導事例が促すIC要素を帰納的に分析し、本年度実施したアンケート結果と対照することで、「小学校において指導できるIC要素」についての概観を示したい。
また、中学校においても、同様のアンケートを実施し、中学校におけるIC指導の在り方についての検討材料とすると共に、小中の連携の観点からの教育上の示唆を探る。これらが、国内外のIC教育の動向に沿ったものとなるように、国内外のIC教育の潮流についても引き続き研究を続けていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
差額の生じた要因の1つに、受講を計画していた異文化間能力を含むグローバルコンピテンシー指標のウェビナーを受講できなかった点にある。時間的な制約から、ウェビナーの受講を検討していたが、海外のサイトで十分に情報が得られず、申込機会を逸した。この結果、「旅費」や「人件費」の項目において、差額が生じた。 加えて、IC指導事例集開発のための研究会の発足時期が遅かったことから、29年度は定期的に研究会を開催するに至らず、予定していた謝金やスクリプト起こしにかかる人件費において差額が生じた。
(使用計画)本年度末にIC事例集開発を目的とした研究会を発足し、新年度から実際の活動を実施している。そのため、本年度未使用であった「謝金」は、次年度に繰り越して使用する。また、発達段階に応じたIC要素の特定を進めるためのアンケートを中学校においても実施するため、アンケートの発送、回収等の作業に「人件費」を当てたい。また、次年度は本科研費研究の最終年度に当たるため、今までの研究成果等を発表するためにも、謝金や交通費を活用したい。
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備考 |
【資料】中山夏恵,久村 研 (2018)「次期中学校学習指導要領とJ-POSTL自己評価記述文との対応」『Language Teacher Education』Vol.5, No.1.pp.204-210. 【翻訳】中山夏恵,醍醐路子訳 (2018)「世界に広がるEPOSTL-ルーマニアの場合」『Language Teacher Education』Vol.5, No.1.pp.15-26.
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