研究課題/領域番号 |
16K02973
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研究機関 | 明海大学 |
研究代表者 |
松井 順子 明海大学, 外国語学部, 准教授 (00275819)
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研究分担者 |
橋本 文子 東京家政学院大学, 現代生活学部, 准教授 (20237928)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | リスニング / ビジネス / 聞き取り / リンキング / 弱化 / 脱落 / 音 / 英語 |
研究実績の概要 |
はじめに:日本語話者が英語を学習する際に様々な要因で聞き取りが難しい。外交や企業の交渉者が聞き取り能力が不足しているために、交渉の主旨が理解できず、重大な過ちをおかしたり、不利な立場に置かれたりすることがある。どの要因が最も英語の聞き取りに影響し、聞き取りを難しくしているか特定することによって、効率よく難しい英語を集中的に学習者に提示し、聞き取り力を強化できる。 方法:音声的な要因以外に、抽象度、背景知識などが聞き取りの難しさに貢献していることが考えられるが、2016年度は音声、語彙、文法、意味の四要素がどのように作用しているか検討した。語彙、文法、意味を一定の尺度にしたがってレベル分けした。例えば、一見似たような表現であるが、”Grab him.”、”Grab her.”、”Grab it.”、”Grab them.” (初級)は背景知識なしでも、理解しやすい。ところが、“Grab us.” (中級)は状況を思い浮かべるのが比較的難しい。”Grab you?”(上級)はさらに使用する状況を想像しにくいが、“You grabbed me, so I stopped.” “Grab you? I didn’t grab you!”などが考えられる。 結果:音声的な難しさが意味上の難しさよりも聞き取りの障害になっているようである。例えば、一連の”grab”文は、意味上、難しい“Grab you?”の正答率(40%)が、意味的に優しい”Grab him.”(27%)よりも高い。ところが、“Grab it” (正答率56%)と“Grab us” (正答率49%)は音声的な障害が2種類(リンキングと弱化)で正答率が比較的高いが、“Grab them” (正答率37%)、“Grab him” (正答率27%)は音声的な障害が3種類(リンキング、脱落、弱化)で、正答率が低い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
リンキング、脱落、弱化、同化などの音声データを中心にシステムを構築していたが、トピック、談話の種類(アナウンス、スピーチ、対話等)、抽象度、持続時間、音節数、語彙の難しさ、文法、速度、聞き取り回数、イントネーションの型、文型、背景知識の有無、専門知識の有無、判断力の有無など、他のパラメータも聞き取りの難しさに貢献していると考えられるので、新たに測定パラメータを増やし、分析を進めることにした。新たな項目を追加する前に、他の要素の作用があるのか、ないのか特定し、あるのであれば、どの程度、聞き取りの難しさに貢献しているのか判断する必要がある。例えば、意味と音声の比較で、音声的な難しさが意味上の難しさよりも聞き取りにおいて大きな障害になっているようである。一連の”grab”文の正答率が、Grab him. 27%、Grab them. 37%、Grab you? 40%、Grab her. 48%、Grab us. 49%、Grab it. 56%となっている。意味上、難しい“Grab you?”の正答率(40%)が、意味的に優しい”Grab him.”(27%)よりも高い。聞き取りの障壁となっているのは、意味よりも、音声的な要素であることが考えられる。今後、データを他のパラメータについてさらに精査し、おおよその傾向から、最も聞き取りの難しさに貢献している要素を多く含む聞き取りのデータを作成し、システムに追加する。
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今後の研究の推進方策 |
国際交渉や発表の英語の要旨や主旨を外交官やビジネスパーソンなどが適格に理解し、重大な過ちに陥ってしまったり、不利な立場に置かれたりすることがないために、国際社会で必要な難しい英語を学習者に提示し、効率よく学ぶ環境を用意する必要がある。 音声的な要因以外に、トピック、談話の種類(アナウンス、スピーチ、対話等)、抽象度、持続時間、音節数、語彙の難しさ、文法、速度、聞き取り回数、イントネーションの型、文型、背景知識の有無、専門知識の有無、判断力の有無などのパラメータが聞き取りの難しさに貢献していることが考えられるので、2016年度で調査した音声、語彙、文法、意味の四要素以外にもそれぞれの要素が、聞き取りにどの程度貢献しているのか、さらに精査する必要がある。 それぞれの項目をパラメータごとに定義づけされた尺度に沿ってレベル分けし、どの要素が聞き取りの難しさに大きく関わっているか判断する。例えば、語彙パラメータの分類では、brush”や”umbrella”は、一見、似たような単語であるが、”brush”は日本語で外来語として定着しているので、語彙の初級レベル1に、”umbrella”は外来語として定着していないので、中級のレベル2に分類する。同様に、トピック、抽象度など、その他のパラメータのデータもレベル別に分類し、統計的に分析する。 聞き取りの難しさに貢献しているパラメータがある程度判明したら、その要素を多く含む音声データを作成し、項目の数を続けて増やし、最終目標の5,000文に近づける。最終的に、システムを一般公開して包括的に最も難しい要素を数多く含む項目を英語学習者に提供し、国際社会で活躍する外交官やビジネスパーソンなどが自由に利用できる環境を整える。
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次年度使用額が生じた理由 |
現在、リンキング、脱落、弱化、同化などの音声以外に、語彙の難しさ、文法、イントネーションの型、文型、判断力の有無なども難しさの評価対象に加え、データを再分析している。聞き取りにおいて重要な要因がさらに増えた場合は、データ入力システムに追加し、初期投入した項目の難しさを自動的にランキングする機能をシステムに追加する予定である。必要項目を加えたシステムが完成し、一定量の項目が整い次第、システムを公開する。機能追加のプログラミング費、データ公開のためのデータベースの準備、項目追加のための音声ファイル作成・アップロード費を本年(最終年度)支出する予定である。
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次年度使用額の使用計画 |
2017年度の重点領域: 1.新たなパラメータが見つかった場合に、項目追加画面に新しく加える。2.新パラメータを念頭においた音声ファイルの作成、アップロード。3.システムを一般公開するためのデータベースの整備 二次的予算配分: 4.新項目追加の際に項目の難易度を自動的に設定する数式を改修システムに導入する。5.改修データをバッチ処理などで、解析できる形式にダウンロードするシステムを構築する。
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