研究課題/領域番号 |
16K02994
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
谷 昭佳 東京大学, 史料編纂所, 技術専門職員 (70532670)
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研究分担者 |
保谷 徹 東京大学, 史料編纂所, 教授 (60195518)
箱石 大 東京大学, 史料編纂所, 准教授 (60251477)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 日本史 / 史料研究 / 古写真史料学 / 画像保存 |
研究実績の概要 |
歴史資料としての湿板写真の利活用をはかるためには、ある時点での事実の直接痕跡といえる写真ネガ(原板)に残されている(イメージとしては写っていない)モノ情報をも含めたアーカイブが構築されなければならない。ガラス原板から知られる制作時の状況や製作者に関わる種々の物理的、化学的情報などでを丹念に掘り起こし記録することが、湿板写真ガラス原板がもつ高精細画像の研究資源化を図るうえでの必須要件となる。初年度は主に以下の調査研究を行った。 1)在外古写真の調査・収集:フランス写真アーカイヴズ、ブランリ河岸博物館、フランス国立自然史博物館が所蔵する日本関係古写真およびガラス原板の調査を実施。ナダ-ルのスタジオで撮影された竹内遣欧使節団、池田遣欧使節団の湿板写真ガラス原板、普仏戦争を観戦した大山巌や伊藤博文らのガラス乾板など、528件についてデジタル画像データを収集した。調査の実施にあたり、コレ-ジュ・ド・フランス日本学高等研究所の協力を得た。 2)国内の湿板写真ガラス原板の調査・収集:東京国立博物館所蔵湿板写真ガラス原板の調査と高精細デジタルカメラによる撮影(382カット)を実施。対象としたのは、1872年の壬申検査関係の湿板写真ガラス原板類や、ウィーン万博前後に国内で開催された博覧会に関係する原板類である。 3)モーザーコレクションの調査・研究:アルフレッド・モーザー著、ペーター・パンツァー監修、宮田奈奈訳『明治初期日本の原風景と謎の少年写真家―ミヒャエル・モーザーの「古写真アルバム」と世界旅行―』の編集に協力し、解説を執筆した。 4)ヴィクトリア&アルバート博物館(V&A Museum, London)から、写真担当学芸員マルタ・ワイス氏(Dr. Marta Weiss)を招聘し、国際研究集会「Photography at the South Kensington Museum 」を開催した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の第一の目的である、ガラス原板から知られる制作時の状況や製作者に関わる種々の物理的(形状、原板上のメモ書き・ネガ番号の痕跡、画像層の切り貼りによる編集痕の確認)、化学的情報(使用薬品の識別、コーティングや修整剤による加工痕の確認)などを丹念に掘り起こし記録することを、海外ではフランス写真アーカイヴズ、国内では東京国立博物館などの史料所蔵先に出向き着実に推し進めることができている。 こうして収集できた伝来が確かな写真史料の情報が加わることにより、高精細デジタル撮影によって収集済みの、ヴィルヘルム・ブルガーとミヒャエル・モーザーによる日本関係ガラスネガ原板コレクションについて、写真史料学的な比較検証を高度化することが可能となった。その結果、次年度に向けて高精細な写真画像を広く公開・出版して歴史資料としての研究資源化をはかる準備が整ったいえる。 その他に、モーザーコレクションに関連して、ウィーン万博出品資料調査(佐賀県立九州陶磁文化館)を行った。くわえて紀州郷士菊池海荘家の湿板ガラス原板を含む古写真コレクション及び古文書の整理・撮影と目録作成(史料編纂所)。冨重利平湿板写真ガラス原板の調査(肥後の里山ギャラリー)なども行うことができている。 初年度の研究課題として掲げた諸点について着実に研究成果を上げており、研究計画に即して順調に進展しいると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までの研究成果を踏まえて、先ず第一に本研究の目的のひとつである、1869年オーストリア・ハンガリー帝国の特派使節随行カメラマンであったブルガーとその弟子のモーザーの湿板写真ガラス原板コレクションを用いた、高精細な写真画像集の年度内の出版を準備し、研究成果の公開をはかる。そのため6月下旬から7月上旬にオーストリアに出張し、ブルガーとモーザーの湿板写真ガラスネガの高精細撮影と技法鑑定の補充調査を行う。 国内では、東京国立博物館において、前年度に引き続き壬申検査関係の湿板写真ガラス原板を調査し、新たに未整理の湿板写真ガラス原板の撮影に取り組む。次いで湯島聖堂博覧会関係の湿板写真ガラス原板の高精細撮影を推し進める。同時に、前年度調査による撮影データと目録データの整備をはかる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究期間中に予定していた、オーストリア・ハンガリー帝国東アジア遠征隊の随行写真家ヴィルヘルム・ブルガーとその弟子ミヒャエル・モーザーが制作・収集した湿板写真ネガコレクションによる写真集の出版が次年度と決定したことを受け、写真集の構成上から新たに必要となった高精細画像の作製及び詳細な技法情報を得るため、次年度前半にオーストリアに出張し、補充撮影と調査を行うことを計画したことによる。
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次年度使用額の使用計画 |
6月下旬から7月上旬にオーストリアに出張し、ブルガーとモーザーの湿板写真ネガの高精細撮影と技法調査を行う旅費としての使用を計画している。8月下旬には、東京国立博物館において、同館所蔵の湿板写真ガラス原板の調査撮影を行う予定である。その事前準備として、前年度調査による撮影データと目録データの整備を推し進める学術支援者への謝金として使用する予定である。
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