最終年である本年度は、過去3年間の研究を継続しつつ、研究成果の取りまとめに着手した。 研究については、秋にモスクワのロシア外務省付属ロシア帝国外交文書館(AVPRI)において、18世紀後半のロシア帝国の対ワラキア・モルドヴァ政策に関する史料調査を行い、それに基づき同時期におけるロシアの対バルカン政策の分析を進めているところである。一方発表に関しては、これまでの研究成果を取り入れつつ、黒海地域史研究の最近の動向を主に社会科教員向けに解説した論考を雑誌に発表し、一般にはあまり知られていない黒海地域研究を紹介した。また、9月にルーマニアのブカレストで開催された第12回南東欧学会大会において、ワラキア・モルドヴァの公とクリム・ハーン国のハーンの問題を取り上げ、両地域とオスマン政府とのそれぞれの宗主・付庸関係を明らかにしつつ、さらに両者の比較を通じて、オスマン帝国の黒海地域支配を考察する内容の報告を行った。このほかに、オスマン政府とワラキア・モルドヴァとの宗主・付庸関係を分析した過去の論文の英訳を含む論集が東洋文庫から刊行された。 18世紀後半~19世紀初頭における黒海地域の国際関係と社会の変容を、オスマン政府による黒海周辺の付庸国支配から考察することを目的とした本研究を通じて、オスマン政府と、ワラキア・モルドヴァ、クリム・ハーン国、そしてグルジア西部のいくつかの小公国との間の宗主・付庸関係の変容過程、およびロシア等によるその関係への干渉を分析し、個々の宗主・付庸関係の詳細、およびロシアによるこうした関係への関与の実態を明らかにしてきた。その成果はすでに、論集や雑誌論文、また学会報告などの形で公にされた。今後、こうした成果をまとめる書籍の出版も計画しており、黒海地域史および黒海地域研究が広く一般に認知されるよう努めるつもりである。
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