研究課題/領域番号 |
16K03001
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
太田 淳 慶應義塾大学, 経済学部(三田), 准教授 (50634375)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ミナハサ / コーヒー / 商品作物 / 自給作物 / 貨幣経済 / 社会変容 |
研究実績の概要 |
4-7月は、昨年度に収集したデータの整理と分析を行った。ミナハサにおけるコーヒー栽培は住民負担が重くあまり発展しなかったというのが今までの定説であったが、「自主栽培」と呼ばれる農民が主体となる方法を取った場合には、農民が積極的に栽培を行い生産が拡大していたことが分かった。 8-9月にはジャカルタに滞在し、国立文書館に所蔵されるミナハサ地方の農業報告書を中心にデータを収集した。そこから得られた、マナド県における村落ごとの主要農作物の生産状況データをGISの技法で地図上に示したところ、地域によって異なる作物に異なった方法で取り組んでいることが確かめられた。一般に内陸の農業地域ではゆっくりと自給作物(コメ、トウモロコシ)から商品作物(コーヒー、ココヤシ)への転換が起き、海岸部の商業的刺激の多い地域で急速なコーヒー栽培の展開と、さらに迅速なココヤシ栽培への転換が見られることが分かった。一方でマナド県以外の4県にも1850年代末から一定量の資料が存在することが確かめられたため、収集を始めた。また、インドネシア大学のボンダン・カヌモヨソ准教授と面会し、研究の打ち合わせを行った。 9月以降はこうした知見を確かめるためにデータをさらに読み込み、1850-60年代におけるマナド県のコーヒー生産の展開を自主栽培に着目して分析し、それが社会の貨幣経済化を進めたことを論じて論文にまとめた。その成果は2018年2月に編著の1章として刊行された。 3月にはオランダに滞在し、ライデン大学図書館で刊行資料の調査を行った。ここでは、ミナハサ地方における植民地期の土地制度調査の報告が見つかったことが大きな成果であった。ミナハサ独特の個人世襲土地所有制度が、商品作物生産の展開にどう影響したのかが今後の課題となる。またこの際に、ライデン大学のデーヴィッド・ヘンリー教授と面会し、研究上のフィードバックを得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ジャカルタの国立文書館はカタログの整備が不十分であることが問題だが、8-9月に比較的長く滞在して資料請求を繰り返すことで、カタログと実物の不一致という問題を一定程度クリアした。農業報告書はカタログでは1850年代から1870年代にかけてほぼ毎年作成されたように見えていたが、実際に資料請求するとその中に農業報告書が含まれていなかったり、また年によって報告対象の地域や精度(情報を県、郡、村のどのレベルで集めているか)、さらに対象作物や資料のフォーマットも異なることが分かった。これが資料自体の非一貫性と思われるため、そのような情報のバラツキを確かめつつ、存在する資料を網羅的に集める作業を現在進めている。 次の問題は、現在文書館が資料の写真撮影を認めないことである。ゼロックスコピーは可能であるが、資料の保存状態からして、コピーを取ると紙が粉々になると考えられるため、断念した。そのため、現在は資料を全て手入力するという方法を取っている。インドネシア人の助手を採用する(日本人をはじめ外国人は、数ヶ月の時間と数万円の費用をかけて調査許可を取らないと資料を見ることが出来ない)ことも検討したが、手書きの読みにくいオランダ語を理解しながら入力できる人材はいないことから、これも断念した。しかし調査が進むにつれ、同じフォーマットの資料はこちらのファイルをコピーしながら対応出来る(つまり村名や調査項目を解読し入力する必要がない)ことが分かり、作業は次第に加速している。 調査の過程で思わぬ発見も多くあった。一つは、今のところ2年分とはいえ、村ごとの人種・宗教別人口統計が見つかったことである。もう一つは、労働供出に関する箇所で道路建設と修復に関する情報が見つかったことである。特に道路は商業作物生産の展開と密接に関わると思われ、今後特に注目して分析する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後も大学の休暇を利用して、ジャカルタの文書館で調査を行う他、次年度はミナハサでのフィールド調査も再開する。今まで資料に現れるマナド県の村落は全て踏破してその位置や地形を確認しているが、今年度にマナド県以外の4県についても一定量の資料が存在することが確かめられたので、それらの資料に記されている村落も訪れて必要な情報を得るつもりである。文書調査は基本的にこれまでにほぼ終えているため、今後は集めたデータを精査して抜け落ちがあるところや再確認が必要なところを調査する予定である。 最終年度である次年度は、研究の取りまとめを積極的に進める。ミナハサ地方における道路の建設が、どのようにコーヒーやココヤシなどの商品作物生産およびコメやトウモロコシなどの自給作物生産に影響を及ぼしたか、それが人口の移動をもたらしたかなどを、集めた資料を分析して確かめたい。 さらにそうした見解を、様々な場で公表してフィードバックを得る予定である。具体的には5月の社会経済史学会全国大会(大阪)と8月のWorld Economic History Congress(ボストン)で発表を予定しているほか、1月には申請者が国際ワークショップを企画する。これにはライデン大学のD. Henley教授、Beira Interior大学(ポルトガル)のM. Schouten教授という大家に加えて、Philippines大学 Diliman校のAriel Lopez専任講師、 Sam Ratulangi大学(マナド)のNono Sumampouw専任講師という若手研究者から参加の承諾を得ている。彼らの報告に続いて、フロアも交えた討論を十分に行い、その成果を出来る限り早く英文雑誌の特集号として刊行する予定である。
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