研究課題/領域番号 |
16K03002
|
研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
前田 弘毅 首都大学東京, 人文科学研究科, 准教授 (90374701)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 通詞官 / コーカサス(カフカス) / イラン / グルジア(ジョージア) / アルメニア / 通訳 / 奴隷軍人 |
研究実績の概要 |
研究初年度は、先行研究について把握することに努めた。また、通詞官の活躍した社会的背景について理解を深めるために、19世紀コーカサス社会に関する概説や、境域としてのコーカサス地域とコーカサス出身マイノリティの活躍が活発になる16世紀以降の西アジア史について概観の把握に努めた。こうした成果の一つとして、アリカンテ大学における国際セミナーにおいて、コーカサス出身者の領域横断的な活動について取り上げた、“Men of transformative: Caucasian converts at the Safavid court in the era of early-modern globalization”が挙げられる。この中では、グルジア豪族社会のダイナミズムと、これと西アジア・イスラーム帝国との接触により生じた人の移動について焦点をあてた。その移動の範囲は遠大であり、大きな歴史的影響を与えている。同セミナーでは、同時代の地中海海域史を専門とする研究者と活発な意見交換を行った。また、19世紀に先行する時代であるが、17世紀においてグルジア、アルメニア、ペルシア語を操り、グルジア史をイランで執筆したパルサダン・ゴルギジャニゼの写本についてトビリシで調査も行い、その境域的な活動について考察した。このほか、19世紀コーカサス総督府に関係する史資料の収集や関連する論文の執筆などを行うことで、当時のコーカサス社会の歴史の把握に努めた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
国際セミナーでの報告など、先行する時代も含めて、複数言語を操ることの意味や諸文明圏の越境について理解を深めることが出来た。また、海外調査を繰り返すことで、海外研究者とのネットワーク造りも順調に拡大している。特にスペインの国際セミナーでは、地中海史の研究者との意見交換を行うことが出来たが、コーカサスはバルカンや東地中海との比較が可能な地域であるので、こうした理論的な視野の拡大が研究にも役に立つと考えている。ただし、通詞官そのものについて、情報の収集や解析についてはまだ進められていない。この点は今後の大きな課題である。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度は、より研究の基礎を固めるためにも、グルジア語、アルメニア語、ペルシア語、ロシア語等の史料について、情報を収集するとともに、解析についてもはじめなければならない。また、先行研究については、引き続き時代幅を広く取った上で、海外の研究者とのネットワークも活かしながら意見交換に努めることで、境域出身者の活動についてより理解を深めていく必要がある。多言語を理解して、それを「翻訳」していく営為について、資料収集、先行研究の読み込み、史料の解析の端緒と情報の整理など、順次作業を進めていく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
初年度はこれまで収集した史資料の整理に時間を多く費やし、新しい史資料の購入や謝礼などを控えることになった。また、同じ理由から予定していた国内における史料調査を行うことができなかった。特にコーカサス境域社会に関するまとめに時間を多くの時間を費やすことになった。これらの成果は次年度に反映される予定である。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度では海外における史資料収集を積極的に進めると同時に、国内における史料調査や研究の枠組みに関する知見を広げるための積極的な研究者交流を進める予定である。複数の文明圏に通底する通詞官ら境域の活動者と、その帝国政策との関連の歴史を理解するために、グルジア他、隣接文明圏にも調査を行う。また、イギリスなど、欧米の研究集会への参加を行う予定である。
|