研究課題/領域番号 |
16K03002
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
前田 弘毅 首都大学東京, 人文科学研究科, 准教授 (90374701)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 通訳官 / ジョージア/グルジア / アルメニア / タタール / 多言語 / 帝国 / イラン / ロシア |
研究実績の概要 |
研究二年目は、初年度に引き続き、先行研究について把握することに努めた。また、多言語に通じて帝国に仕えたコーカサス出身エリートの例として、17世紀にサファヴィー朝に仕えたグルジア出身(おそらくアルメニア系)官人のパルサダン・ゴルギジャニゼと彼の残した作品について事典項目を英文で執筆した。その中で、複合的なアイデンティティのあり方や政治性についても触れた。また、ゴルギジャニゼの作品にも登場する有力なグルジア出身官人家系について、英文の論文からペルシア語に翻訳を行い、イランで出版した。この論文は2008年にグルジア語に翻訳されてやはり単著として刊行されており、いわば「二つの母国」でともに現地語で出版されたことになる。すなわち言語・宗教をこえた活動を繰り広げた越境エリートの歴史を多面的な広がりをあらためて確認する作業にもなった。このほか、諸文明の交差点としての環黒海地域に注目することで、ジョージタウン大学教授チャールズ・キングの著作『黒海の歴史』を監訳して出版した。 また、今年度もイギリス・スコットランドのエディンバラ大学やジョージア国立文書館で開催された国際シンポジウムに参加して、積極的に海外での発表と史資料の収集および研究者との意見交換に努めた。エディンバラでは欧米の研究者と意見を交換して、ジョージアでは現地や旧ソ連圏の研究者とも研究交流を深めることが出来た。来年度も引き続き史資料の収集に努めていきたいと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
19世紀に先立つ時代であるが、多言語能力をいかして活動していたグルジア出身官人について英文で解説を記し、キリスト・イスラーム教関係史の国際的な大部な著作に貢献することができた。また、『黒海の歴史』監訳の作業の中でも、ロシア南下の歴史的意味など再検討することができた。このように、文明の狭間としてのコーカサス地域とその出身者の活動について、より幅広い文脈から捉え直す作業をすすめることができた。ゴルギジャニゼについてはイギリス・スコットランドでも報告を行うことで、研究者との意見交換を通じてユーラシアを移動する人びとの視点からも多くの示唆を得た。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、引き続きグルジア語、アルメニア語、ペルシア語、ロシア語等の多言語史料の収集に取り組むと同時に、解析についても順次進めていく必要がある。また、西洋史や日本史の研究者とも文明間交流の視点から様々な示唆を得ており、次年度も引き続き他分野の研究者との意見交換にも努めたい。同様に、グルジアやイランなどの現地での研究発表を重ねると同時に、欧米の研究者の業績も読み込むことで、西アジア・ユーラシア研究の枠組みでの研究を進展させていく。その上で、成果についても適宜纏めていく必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度は海外でエディンバラ、トビリシなど複数回の学会発表を行った。また、複数の出版物の成果も得ることができた。一方、国内の史料収集などに費やす時間をとることができず、新たな史資料を獲得し、比較史的展望からまとめるための作業が遅れている。
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