研究実績の概要 |
研究三年目は、“Hirotake Maeda, “Lives of Enikolopians: Multilingualism and the Religious-National Identity of a Caucasus Family in the Persianate World”, Abbas Amanat and Assef Ashraf eds., The Persianate World: Rethinking a Shared Sphere, Leiden and Boston: Brill, 2019, 169-195を発表することで、研究の初期の成果を英文で纏めることができた。この中では、過去収集した家系の詳細やペルシア語、グルジア語、アルメニア語、ロシア語など多言語史資料解読による複雑な歴史の再構成に努めた。そして、単に通訳官という職種のみならず、言葉を翻訳することの政治的・社会的意味をより広く問いかけた。近代という時代および中東社会という地域史についても一定の貢献を得たと考える。「ペルシア世界」という近年注目される広域世界に関する水準の高い論文集に論文を掲載することができたこともまた研究成果の発信の観点からも大きな成果といえる。また、近代コーカサス史に関する概説を執筆したが、これも中央ユーラシア史研究の更なる深化に向けた貢献と考える。境域地域コーカサスの歴史が、周辺世界との連関で成り立っていることもあらためて強く認識した。このほか、ジョージア/グルジア人若手研究者のオクロピリ・ジクリ氏と共同で複数回の研究発表を行った。その中ではサファヴィー帝国支配下のジョージア/グルジアの貴族がギリシア語の福音書をオスマン帝国支配下のギリシア製教聖地に寄贈した際のジョージア/グルジア語テキストについて解析を行った。これも多言語主義に関する本科研の重要な成果と考える。
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