2022年度は、研究全体の総括も意図しながら、コーカサス出身者の出身地と帝国中枢との「往復」関係に特に注意を払って研究を進めた。主な成果としては、17世紀後半に当時のグルジア・カルトリ王国出身でサファヴィー帝国中枢で活躍したエリート官人であるパルサダン・ゴルギジャニゼに関するこれまでの研究をまとめた英文論文を発表した。カルトリ王国宮廷でロストム王によって養育された後、サファヴィー帝国宮廷に出仕したゴルギジャニゼはカルトリ王側近としての前半生と、帝国官人としての後半生の二つに活動の場ははっきりと分かれるものの、後半生では帝国中枢においてグルジア出身者としての特性を活かして活躍し、さらにそのために何度か政治的な失脚を経験するもその際にはジョージア/グルジア史や『王書』のジョージア/グルジア語訳を記すなど文化活動に従事した。アルメニア、ジョージア/グルジア、イラン・イスラーム文化など、複雑な文化的背景と、グルジア貴族階層の出身ではないが王に養育されたという教育環境など、19世紀の著名な通訳官家系エニコロピアン家の活動にも相似して、近世から近代にわたるコーカサス多民族社会の形成と周辺帝国との関係について、考察が深まった。また、ジョージア/グルジア国トビリシで開かれた国際会議にも参加して報告を行った。現地の研究者との意見の交換及び、特にこの3年間に出版された現地の文献を蒐集して将来したこともまた、貴重な成果である。
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