研究課題/領域番号 |
16K03004
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
吉田 厚子 東海大学, 現代教養センター, 教授 (50408069)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 日本史 / 文化交流史 / 江戸時代 / 日魯・日蘭 / 地理学 / 洋学史 / 稲垣定穀 / 古地図学 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、江戸時代の文化遺産「稲垣家旧蔵地理学関連史料」に着目して、その全容及び史料性を解明することと、同史料をデジタル化することにある。加えて、19 世紀前半の知識人が日本の北方に関する地理的情報を収集した結果、当時の世界情勢をいかに理解したのかを、日魯・日蘭文化交流史の視点から把握し、その情報内容の意義を、文献のみならず地図・地球儀などの器物の分析を通じて解明することも目指している。本年度は上記の目的を達成するために、主に前年度からの継続作業に従事した。具体的な研究実績は、以下の通りである。
1.研究代表者と連携研究者は、津市図書館等で蒐集した「稲垣家旧蔵地理学関連史料」の分類・整理を行い、「稲垣家旧蔵地理学関連史料仮目録」の補完作業を続けた。また地図・地球儀等の撮影済み図像・器物史料のデジタル化に向け、画像をノートパソコンに取り込む作業も継続した。 2.研究代表者は、前年度から取り組んでいる「稲垣家旧蔵地理学関連史料」と「大槻玄沢史料」との比較を通じて、蛮書和解御用の職にあった大槻の海外情報受容の知識系統の解明に向けた作業を深化させ、成果の論文化に向けた準備をした。 3.連携研究者は、蕃書調所絵図調書出役に抜擢された柴田収蔵に着目し、柴田が伊東玄朴塾で蘭学の修業をする間に調所頭取の古賀謹一郎の知遇を得、古賀の自邸をたびたび訪れ、古賀が収集した世界地図・地理書を借覧し、古賀とともに世界地理を研究したことを解明した。また、稲垣定穀がマッテオ・リッチ製作の世界地図「坤輿万国全図」を研究し、『坤輿全図説』(1802年)を刊行したことにも注目して、その本文の稿本、凡例の稿本、試し刷り、跋文の試し刷り(書き込み訂正あり)に加え、同じ伊勢出身の橘南谿の序文の原稿などが稲垣文庫に現存し、完成までの過程をたどれる点に鑑みて、これら稿本類を同文庫で収集し、その内容の分析に取り掛かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上記の「研究実績の概要」で言及したとおり、本年度までの段階で、研究代表者と連携研究者の双方は、「稲垣家旧蔵地理学関連史料」の全容解明やデジタル化に向けた作業に着手し、成果公開を目指して、その研究作業は着々と進展しつつある。また研究代表者が事例研究として前年度より取り組んでいる大槻玄沢の海外情報受容の知識系統の解明に関しても、論文公表に向けて推敲段階にある。一方連携研究者も、19 世紀前半の知識人が世界の地理的情報にいかに接し、当時の世界情勢をいかに理解したのかに関する成果の一部を公表するに至っている。 しかしながら反面、本年度の後半は、研究代表者が約半年間にわたる病気治療のため、研究作業に専念できる時間が当初の予定よりもかなり減少してしまい、計画していた津市図書館等での「稲垣家旧蔵地理学関連史料」の悉皆調査、同史料の特徴解明に向けた比較検討用の各地研究機関に点在する関連史料の調査・蒐集、連携研究者との打ち合わせの機会をもつことができなかった。そのため「稲垣家旧蔵地理学関連史料」の全容解明やデジタル化に向けた作業等に遅延を来し、当初の計画通りに進んでいないところがあることは否めない。また連携研究者も諸般の事情で、予定していたオランダのライデン大学、ハーグ国立図書館等での現地調査を行えず、オランダ側の世界情勢に関する知識の分析や、蘭書を利用して作成したことが特定できる史料の原本との対比を通じ、関連諸史料の解析作業を飛躍的に進展させることができなかった。 従って、以上の理由により、本研究課題の現在までの進捗状況は、「やや遅れている」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は先ず、今年度中に実行できなかった、津市教育委員会ならびに津市図書館での「稲垣家旧蔵地理学関連史料」の悉皆調査、更には国内の各地研究機関での同史料の史料的特質解明に要する比較検討用関連史料の調査・蒐集作業を、研究代表者及び連携研究者の双方が完了させねばならない。また加えて、「稲垣家旧蔵地理学関連史料」の全容を可視化するためにも、作成途上にある「稲垣家旧蔵地理学関連史料仮目録」の公表と器物史料のデジタル公開化に向けた目処をつける必要もある。 さらに19 世紀前半における知識人が、世界の地理的情報をいかに受容し、当時の世界情勢をいかに理解したのかを解明するために、研究代表者と連携研究者は、関連成果としての事例研究の一部公表を目指す。研究代表者は、大槻玄沢の海外情報受容の知識系統の解明に関する成果については、論文化に向けて推敲段階にあるので、次年度中に学術雑誌に公表できるようにする。連携研究者も本年度より、稲垣定穀がマッテオ・リッチ製作の世界地図「坤輿万国全図」を研究して刊行した『坤輿全図説』の完成までの過程の解明等の研究に着手しているので、当該研究に関わる成果の一部を次年度中に何らかのかたちで公にする。 なお次年度は、本研究の最終年度に当たるので、研究成果の総括と成果物の公表を目指して、研究代表者と連携研究者とは、仙台や東京などで綿密に研究打ち合わせをする機会を複数回設けて、本研究の総合化をはかり、最終的な研究成果報告書にまとめるつもりである。
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次年度使用額が生じた理由 |
すでに「現在までの進捗状況」欄で言及したように、研究代表者は、本年度の後半、約半年間にわたって病気治療のため、研究作業に専念できる時間を充分に確保することができなかった。そのため、計画していた津市図書館等での「稲垣家旧蔵地理学関連史料」の悉皆調査、同史料の特徴解明に向けた比較検討用の各地研究機関に点在する関連史料の調査・蒐集、連携研究者との打ち合わせの機会をもつことができなかった。また連携研究者も諸般の事情で、オランダでの関連史料の調査・蒐集を行えなかった。 上記の理由から明らかなように、次年度での使用が生じた経費は、旅費として計上していたものなので、次年度は研究代表者と連携研究者の双方が、史料調査や研究打合せのための旅費として使用する計画である。
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