研究課題/領域番号 |
16K03012
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
高橋 昌明 神戸大学, 人文学研究科, 名誉教授 (30106760)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 内乱 / 大地震 / 京上物の途絶 / 餓死者の発生 / 都市機能の麻痺 / 建物の倒壊 / メンテナンスの不足 |
研究実績の概要 |
研究目的にそって、平家が壇ノ浦で滅亡した約百日後の元暦二年(1185)七月九日に発生した、京都を中心とする大地震(推定マグニチュード七・四)を、主な対象にとりくんだ。治承四年(1180)八月からはじまった全国的内乱(治承・寿永内乱)は、荘園公領制に甚大な打撃を与えた。その結果、京都にもたらされるべき年貢や租税が大幅に滞った。その内乱が終息した直後、大きな地震が起こる。地震発生にあたり、京都の人々や建物の内乱による疲弊が、地震被害にどのような否定的な影響を与えたか、という点を明らかにすることが目的であった。そのため昨年度から現存史料の総点検と、それらを読み下し、註釈をつけ、歴史学的な解説をつける作業を開始し、本年度ようやくその作業をほとんど終えることができた。 そこで明らかになったことは、地震そのものの物理的な衝撃で建物が倒壊したということももちろんあるが、内乱によって各種上納物が滞り、朝廷や個別荘園領主による各種人夫の徴集が思うに任せず、それらが原因で、建物に対する補修・維持管理が行きとどかなくなったことが、被害をさらに大きくしたと推察されることである。また内乱にともなう京上物の途絶にともなう飢饉が、大量の餓死者を発生させ、さらに平家や木曾義仲などの軍兵が京都を占拠し、住民たちから強引な兵糧米の徴収を行い、彼らによって略奪・強盗・放火など犯罪が頻発し、それで人心が荒廃し、都市機能が麻痺していたことが、地震被害をさらに加重したと考えられる。 地震前の京都における飢饉発生の深刻さは『方丈記』のような文学作品にリアルに表現されているが、これをより信頼度の高い貴族の日記などで、さらに確度の高いものにしてゆくことも試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究が進捗しなかった理由は、災害・飢饉にかんする情報は断片的で、その原因が天候不順以外に具体的にはわかりにくいという、研究課題を設定したときから予想された困難があり、これを突破する方向性が見いだしにくかったことがある。また以前から催促されていた岩波新書『武士の日本史』(2018年5月22日刊)の執筆と校正、その後の修訂、関連する講演などに時間をとられ、申請時の研究計画調書に記したエホートが実現できなかった点は、大きな誤算であり、反省しなくてはならない。一方、研究対象を地震被害と内乱期の京都の置かれていた状況の関係にしぼったことで、一定の進捗を見た。
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今後の研究の推進方策 |
治承・寿永内乱(源平内乱)が終息すると同時に、荘園体制再建の動きが始まる。その現れとして荘園現地の再把握を意図した検注(土地調査)の実施がある。具体的には高野山領大田荘、頌子内親王領紀伊国南部(みなべ)荘、九条家領越後国白河荘、松尾社領丹波国雀部荘、興福寺領大和国池田荘、同出雲荘、東寺領伊予国弓削島荘などがある。このうち最初の二つの荘園についてはすでに論文として発表している。残る他の荘園のうち手を付け始めている白河荘について具体的な研究成果を出したい。また元暦二年七月の京都大地震については、読み下し、註釈・解説についての作業を完全に仕上げたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)次年度使用額が生じた理由は、学界出張、史料調査、現地見学などが十分にできていない結果であり、それは主に旅費の部分に現れている。次年度はこの点を改善したい。
(使用計画)次年度は史料調査、現地見学の遅れを取り戻すため、東京大学史料編纂所、国立歴史民俗博物館など関東方面および京都大学博物館などへの出張、九条家領白河荘の故地である新潟県阿賀北地方、関連して会津方面、愛媛県の東寺領弓削島荘などの調査を行いたい。
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