第一に、研究対象とした宇喜多能家画像賛(岡山県立博物館所蔵、国指定重要文化財)について、専門業者による高精細赤外線撮影を実施し、現代の最新技術に基づく判読の基盤を構築した。東京大学史料編纂所より要請をうけ、同所編纂の『大日本史料』に撮影画像を提供するなど、学界における情報共有にも貢献できた。なお、翻刻データは、『名古屋大学人文学研究論集』二の論考でも提示し、『大日本史料』の翻刻との異同箇所についても明示し、今後の議論に資するよう努めた。 第二に、岡山県立博物館に所蔵されるにいたる伝来経緯を解明した。江戸期以来の地誌類について綿密に検討を加えたほか、とくに旧所蔵者である宇喜多家文化財保存会(岡山市東区邑久郷所在)の関係者を訪ね、現地調査を行い、今後は情報が失われる一方となるであろう伝来経緯について、今後に共有保存されるべき事実関係を多く確認し、『岡山地方史研究』掲載の論考にまとめた。 第三に、研究の所期の目的である画像賛を分析し、信頼性が高いとされる古文書、古記録類との綿密な照合作業を行った。一般に信頼性が低いとされる画像賛には、細川高国、浦上村宗らを軸に展開されていた当時の政局について、当事者の主観に属する機密事項ともいうべき特色ある記事があることを解明し、今後の画像賛ないし五山文学に関する史料学的研究への展望を開いた。詳細は『名古屋大学人文学研究論集』二に掲載の論考を参照されたいが、画像賛の要点はふたつに絞られると見通した。第一に、像主である画像賛の出自である。蘇軾の古典も参照しながら、自らが始祖だという大胆な主張が行われている事実を見いだした。第二に、戦功をめぐる記述である。戦場における殺戮行為があえて記載されることで、像主がいわば「武士」の一員になったという主張を含むこと、中央政局に必ずしも従属していない地方政局の先行性が記されていること、などを見いだした。
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