本研究では、朝鮮出兵(文禄・慶長の役)に関する68通の豊臣秀吉文書の年代比定を全体構想としている。最終年にあたる本年度は年代比定にかかわる秀吉文書などの補完的な収集と年代比定の総括を進めた。 1.史料収集:(1)9月、東京大学史料編纂所において藤堂文書などの史料調査(閲覧・筆写)を実施した。(2)11月、高桐院住職松長剛山氏より5月18日付総見院宛豊臣秀吉朱印状の写真コピーを入手した。 2.年代比定の総括:本研究では68通を年代比定の対象としたが、うち8通は豊臣秀次文書を豊臣秀吉文書と誤認したものであり、また朝鮮出兵とは無関係の豊臣秀吉文書は1通であった。したがって、本来対象とすべきであったのは59通であり、この点は計画立案の段階での調べのあまさを反省しているが、少なからぬ秀次文書が秀吉文書と誤認されていた状況を指摘したのは秀吉文書研究において一定の意義を有していよう。本研究において本来対象とすべきであった59通に関しては推定の域をでないものも含めると、50通の年代を特定の年に比定できた。ただ、残りの9通については年代を複数年に限定するにとどまった。また、補遺として4通の秀吉文書も検討し、2通を特定の年に比定し、残り2通は年代を複数年に限定した。その詳細は次項の(2)を参照されたい。 3.研究発表:主要な発表は次のとおりであった。(1)「木下吉隆と文禄の役に関する豊臣秀吉朱印状の年代」(『人文科学研究』第23号)を発表した。(2)『朝鮮出兵に関する豊臣秀吉文書の年代比定:豊臣秀吉文書の集成にむけた基礎的分析 研究成果報告書』を発表した。(3)「朝鮮出兵時期的日本造船―以長宗我部領国的大規模造船計劃為中心(朝鮮出兵期日本の造船―長宗我部領国における大規模造船計画を事例に)」(「第三届壬辰戦争研究(国際)工作坊 壬辰戦争与日本、朝鮮、明朝三国経済」)を学会発表した。
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