研究課題/領域番号 |
16K03021
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
前村 佳幸 琉球大学, 教育学部, 准教授 (10452955)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 近世琉球史 / 琉球王国評定所文書の料紙 / 近世琉球における文書・典籍類の料紙 / 顕微鏡写真による料紙繊維の分析 / 近世~明治期における沖縄の紙の原料 / 先島の地方役人の勤書 / 先島の士族と家譜 / 八重山の地方文書と典籍 |
研究実績の概要 |
「琉球王国評定所文書」については、東京大学史料編纂所の所蔵分について調査を行った。透過光による顕微鏡観察により、この料紙は「百田紙」とされているが、土粉など填料が含まれていないという暫定的所見を得た。 両先島地方の地方文書と典籍類については、宮古島市総合博物館の協力を得て、未整理資料を調査することができた。そのなかから、全体が雑誌用紙で綴じられて保存状態の良くない、「勤書」と家譜を選択し、前者の修復事業を実施した。その結果、「勤書」の内容・様式・作成など古文書学的な所見を得ることができた。本文書は耕作筆者という最末端の地方役人に関するものであり、現存するなかでは最も古い年代とみられ、その史料的価値の高さを示すことができた。料紙についても、修復前に紙片を摘出して、C染色液による染色と未染色のスライドを作成して所属大学の研究基盤センターにて顕微鏡写真を撮影することができた。分析の結果、「勤書」の料紙は副材料や填料が配合されていない楮紙系の紙であることが判明した。 八重山地方に関しては、所属大学附属図書館所蔵の「宮良殿内文庫」を中心に調査を進め、その中から『太上感応篇大意』と『遺老説伝』について保存状態の予備調査と修復事業に伴い摘出された紙片を試料として顕微鏡撮影を行った。その分析の結果として、後者の料紙は楮紙とされていたが、アオガンピとの配合紙であることが判明した。さらに、石垣市立八重山博物館での収蔵状況調査を行い、翻刻済み文献の実物資料の保存状態や新規受託の文書群などに関する情報を収集することができた。 これまでの成果により、竹紙、楮紙、芭蕉紙に加えてカジノキと青雁皮や藁などとの混合紙もまた近世琉球とりわけ先島地方の文書・典籍用紙として注目すべきであることが指摘できる。なお、近世琉球史の諸相として、円覚寺と崇元寺における王家と王府の祭祀に関して論考を発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は昨年度と異なり、研究活動のエフォートが確保できた。ただし、日程調整や体調の関係で頻繁に上京できなかったので、国立公文書館での「琉球王国評定所文書」調査の推進が課題となっている。
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今後の研究の推進方策 |
国立公文書館の「琉球王国評定所文書」調査を進展させる。顕微鏡観察・撮影のための試料を確保できない場合でも現物を悉皆的に閲覧し、紙料の特徴を把握する。東京大学史料編纂所の所蔵分については、保存状態確認の予備的調査を提案して試料を確保したい。 先島地方については、かなりの進展が期待される。宮古島市・多良間島では、前年度に調査した文書とセットで宮古島市総合博物館が受託した家譜の修復にともなう調査計画を推進中である。八重山地方では、宮良殿内文庫(琉球大学附属図書館)に加えて、最近、大部の資料を受託した八重山博物館所蔵の資料を調査する。その内容と保存状態の把握を進め、研究対象をしぼりこむ。 調査手段については、JISのP8120に基づきC染色液を調合することにより、所属の大学の研究基盤センターの機器を活用して自己完結的に分析できるようにする。これにより、沖縄県内の資料修復にともなう料紙調査受託の体制を構築する。 近世琉球史の諸相についても、史料として読解することにより得られた知見を基に論考を執筆し公開していく。首里王府の行政機構、対外関係の処理、国家的祭祀、歴史の叙述、両先島地方の統治など、中央と地方の両方から多様な認識を深める。 和紙製作者の協力を得ながら、沖縄の料紙抄造を原料や製作工程から検討する機会をもつことにより、製法の観点から古文書を検討する。特に芭蕉紙は地方(じかた)で多用されたが、現在、近世文書と同様なものは製作されておらず、その製法の再現が課題となっている。芭蕉紙を見本帳に加えることが、その成果として考えられる。
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