本年度は、専門家の指導により和紙抄造用具の取り扱いを検討した。これは、近世八重山の政庁である蔵元編纂の「紙漉方并茶園方例帳」の記述に基づいて紙を抄造し、近世の古文書・古典籍の料紙の特徴を探るための基礎的な成果である。先島地方の古文書等の所在について、博物館からの情報もあり、より多くの資料による古文書研究・歴史学研究の進展が期待される状況である。一例として、宮古島市では、『平良市史』掲載の近世の辞令書について、12点の内3点の現物と保存状態を確認し、あわせて保管されていた折紙を調査できた。実地調査では資料を探し出すことが目的とされるが、さらに翻刻や影印出版が済んでいる資料の現状を調査対象とし、修復と並行した料紙の分析を行うことが史料学・古文書学の手法として有効であることが確認された。「琉球王国評定所文書(琉球評定所記録)」を検討するなかで、文書中に「百田紙」と呼称表記されていても、琉球で抄造した楮紙と薩摩から賜与された「百田紙」とは異なることが考えられる。これを文書実物により裏付けることが課題として浮かび上がってきた。近世琉球史の課題として、王統の継承と中国的な宗廟制度との関連性に注目しているが、その研究推進のために、沖縄県立博物館・美術館所蔵の『中山世鑑』の撮影を行った。これにより、系図の図像データを取得し、同館所蔵の蔡温本・蔡鐸本『中山世譜』の系図と一括して版下を作成し、系図と廟制とを関連づける論文を完成することができた。また、さらに「尚家文書」や「琉球王国評定所文書」を史料とした近世末期における琉球の廟議に関する論文を発表することができた。なお、本年度最後の四半期は、コロナウィルス感染拡大により、公文書館での調査を行うことができなかったので、前年度修復した「染地氏家譜支流」の料紙分析や「琉球王国評定所文書」における紙に言及する記事の収集など学内で行える研究にシフトした。
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