研究課題/領域番号 |
16K03026
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
高木 徳郎 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (00318734)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 荘園現地調査 / 伊賀国鞆田荘 / GIS / 地籍図 / 検地帳 |
研究実績の概要 |
日本中世史研究における荘園制の成立をめぐる研究は、国家権力の中枢に群がる人々の私的な人的ネットワークに依存する形で荘園制が成立するという「立荘」論の提起以降、再び活発化の兆しをみせつつあるが、この「立荘」論に対しては、地域社会の動向をふまえた議論の再構築が必要との批判もある。本研究は、「立荘」論のこうした弱点を克服するために、荘園制の形成を、荘園領域の確定や住人の編成、さらには開発や生業といった地域社会の現実の実態・動向に立脚した新たな地域社会の再編過程の一環ととらえ、GISソフトなどの近年のIT技術を活用した現地調査により、従来の荘園現地調査法の方法論的な革新を図りつつ、荘園制成立史の研究を、「立荘」論からさらに新たな段階へと前進させることを目的とするものである。 本研究では、こうした目的を達成するための具体的な研究・調査対象として、東大寺領伊賀国鞆田荘(現在の三重県伊賀市阿山地域)を設定し、国・県による圃場整備事業が完了した現地において、GISを活用して明治期に作成された地籍図の地割を、圃場整備前に撮影された空中写真および三重県が制作し頒布している2500分の1デジタル地形図上に復元し、現地調査によって現況の水利灌漑状況と明治期の灌漑用溜池の位置を記録し、GIS上に統合する作業を行い、前近代における当該荘園の水利灌漑状況を復元する基礎資料を作成する。 また、こうした取り組みの一方で、現地調査の過程では新たな史料の発見や、所在不明となっていた史料の所在も確認できた。中でも、元禄年間に行われた検地の結果を記した検地帳をはじめとする区有文書の発見は、上述した地籍図の地割を空中写真や地形図上に復元していく作業にも有益な情報を付加することができ、きわめて有意義な発見であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28・29年度は、大正年間築造の滝谷池を親池とする傘下の中小既存溜池約100ヶ所のうち、8割程度の溜池について現地比定作業を行い、一部の現存する溜池については現況における灌漑範囲・灌漑面積・受益者数・水利慣行・伝来文書の有無などについて聞き取り調査を行った。前者の作業は、明治期に作成された地籍図の地割(耕地だけではなく屋敷地・溜池・道路・山林なども含まれる)を空中写真・地形図上に統合して復元していった結果、現在の耕地・荒れ地などの中に、かつての溜池であった土地が含まれていることが判明したため、こうした旧溜池の場所を現地踏査により比定したことにより可能となった。これにより、かつての鞆田荘の耕地が、想像以上に溜池灌漑に依存した地域であることが判明し、文献史料から得られるイメージを変える大きな成果と考えられる。こうした作業を、平成29年度までに、鞆田荘を構成する現在の上友田・中友田・下友田地区の主要部分について完了した。 また、後者については、現在も現役で灌漑用溜池として使用されている溜池の管理者・使用者の方からの直接的な聞き取り調査を行い、現代における溜池の使用状況の調査を行った。 一方、こうした調査の過程で、上記各地区に区有文書の形で近世・近代文書が残されていることが判明したので、これらを目録化し、一部、元禄期のものを含む検地帳の翻刻作業も行った。これにより、明治期からさらに江戸時代中期へ遡って、耕地状況の復元を行う手がかりが得られた。
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今後の研究の推進方策 |
上述した作業を、鞆田荘を構成する西湯舟・東湯舟・湯舟地区でも行い、明治期における旧鞆田村の範囲で、地籍図の地割を空中写真と地形図上に復元する作業を完了させ、その成果を報告書にまとめる作業を行う。 とくに西湯舟地区では、溜池の数が東湯舟・湯舟地区に比べて多い上に、聞き取り調査の過程で、行政的な大字・小字などの単位とは別の共同体組織の存在が浮かび上がってきており、そうした組織と農業経営との関係や、溜池の管理との関わり方などを重点に、聞き取り調査を進めていく。また、東湯舟地区では、現在も共同的な管理が行われている地区内唯一の溜池に仲間組織(水利組合)があるようなので、そうした組織の運営方法や灌漑の実態、水利慣行などについて、古老からの聞き取り調査を進めていくことにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
地籍図(字限図)の地割・地目などの情報をGISソフトに入力する作業の進捗が予想より遅かったため、その作業に対して支払う予定であった謝金の支出が少なかったため。 次年度は、この作業を完了させるとともに、現地調査についても補充的な調査を行い、調査報告書をとりまとめる計画である。
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