本研究は、日本中世における荘園制の成立過程を地地域社会の視座から見直し、新たな段階の荘園制成立論を構築することを目的としたものである。その一環として本研究では、GISソフトなどの近年のIT技術を活用し、従来の荘園現地調査法の方法論的な革新を図りつつ、東大寺領伊賀国鞆田荘(現在の三重県伊賀市阿山地域)の現地調査を行った。 この地域では、国・県による圃場整備事業が完了して既に数十年が経過しており、一般的には事業前の耕地の状況を正確に把握することは困難な地域であった。 そこで本研究では、GISを活用して明治期に作成された地籍図(厳密には字限図)上の地割を、圃場整備前に撮影された空中写真および三重県が頒布している2500分の1デジタル地形図上に復元するとともに、現地調査によって水利灌漑の現況と明治期の灌漑用溜池の位置をGIS上に復元する作業を行い、前近代における当該荘園地域の地割を再現した「伊賀国鞆田荘地域地籍図復元図」を作成した。これにより、測量技術が不十分な中で作成された明治期の地籍図と、近代的な測量法に基づいて作成された現代の地形図および空中写真とを統合して一枚の地図を作成していくスキルが確立できたことは大きな成果と言えよう。 また、現地調査の過程で新たな史料の発見が相次いだ一方、所在不明となっていた史料の所在が確認できたことの意義も大きい。中でも、元禄年間に行われた検地の結果を記した検地帳をはじめとする区有文書の発見は、上述した地籍図の地割をGIS上に復元していく作業にも有益であったし、現地調査では、明治期の地籍図上では溜池となっていながら、現在では耕地・荒地になっている旧溜池地のほぼすべてを現地比定することができ、かつての鞆田荘の耕地が、想像以上に溜池灌漑に依存した地域であることが判明し、文献史料から得られる同荘のイメージを大きく塗り替える貴重な成果を得ることができた。
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