研究課題/領域番号 |
16K03035
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
池田 憲隆 弘前大学, 人文社会科学部, 教授 (60183159)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 軍備拡張計画 / 壬午事変 / 海軍 / 松方財政 / 艦船建造技術 |
研究実績の概要 |
本年度の研究成果については、「1883年長期軍備拡張計画の成立をめぐって 」(『人文社会科学論叢』第2号、2017年2月)を発表した。1883年度以降実施された長期軍備拡張計画の成立過程について、従来の外交史的研究と国内政治・財政史的研究成果を批判的に検討するとともに、新たな史資料に基づいた論点を提起したものである。 本論考は、1882年の朝鮮における壬午事変が日本と清国との外交的・軍事的緊張関係を惹起し、日本政府をして軍備拡張計画を策定させることになったという通説的把握について、事変への日本政府の対処動向を整理し、それが軍拡へと繋がる根拠に乏しいことをまず明らかにした。しかしながら、軍拡計画が成立したことは間違いなく、それを可能にしたのは政府内における財政・外交政策の絡み合いであったことを主張した。その根拠として、軍拡計画と軍拡財源の構想推移を史料に基づいて分析し、今後の研究の方向性を提示した。 次に、以上の論考執筆と並行して、当時の日本政府首脳が「清国の脅威」としてみていた中心的存在である清国艦隊について、近年の中国における研究を主としてフォローした。研究代表者は中国語文献に関する読解力が十分とはいえないので、中国人留学生に助力を仰ぎつつ、検討をおこなった。また、資・史料の実地調査については、国立公文書館・国立国会図書館憲政資料室において、清国艦隊および壬午事変への日本政府の対応に関する史料収集をおこなった。これらは先の論考ですでに一部利用した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定していた軍拡計画の成立経緯については、前述の論考によってほぼ研究を終了した。軍拡計画の実施過程(1883~1888年)については以前に発表した成果に追加・修正を加える作業を進めている。 軍拡計画成立後の国内への艦船発注・購買過程についても基本的に解明を終えているが、外国発注の分析とそれに関連する技術導入の過程についての検討は進行途中である。この時期に英国を中心にヨーロッパ諸国において艦船に関するアーキテクチュアが大きく変化するとともに、民間企業による艦船生産が進展したという状況変化の把握に努めているためである。 他方で、次年度予定であった1883~1888年についての作業を前倒しして進めており、軍拡計画が成立しなかった経緯および軍拡計画なき部分的軍拡の実施についての解明もほぼ終えたので、当初の予定とは異なる部分があるが、全体的な進行はほぼ順調といえる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に引き続いて、次年度は艦船外国発注とそれに関連する技術導入の過程についての検討をすすめて、それとの関連で国内艦船建造過程の分析結果を論考として公表することを予定している。 次に、上記の分析を踏まえながら、艦船国内生産体制についての制度的変化および技術者・労働者の存在形態の検討に移る。また、海軍費支出がいかなる経済的波及効果を持ったのかという点の解明にも着手する。 最終年度は、1896年度予算と97年度予算の両者で打ち出された新たな日清戦後軍拡計画の全体像を明らかにし、以前の軍拡計画との関連と異同を問うとともに艦船製造技術形成および国内生産体制の到達点を検討する。それらを通じて、長期軍備拡張計画の政治経済的意義を解明するつもりである。
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