本研究は、江戸時代の藩領国における史蹟顕彰を分析したものである。一般的にいえば、寺院や神社の由緒とは,長い年月をかけて丹念に書き継がれてきたものと考えられる。だからこそ、古い時代に創建された寺社は、その由緒によって「名所旧跡」と認められるわけである。しかし、実際には、領主のてこ入れによって、寺社の由緒が短期間で書き換えられることも多い。また、江戸時代に考証主義的な風潮が高まってくると、史実に合わないという理由から、古い由緒が否定されることもある。本研究では、水戸藩を事例として、「名所旧跡」が多層的な契機から創り出される過程を検証し、それが後世の人々の歴史認識に及ぼす影響力を探った。
|