研究課題/領域番号 |
16K03040
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
小風 秀雅 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 教授 (90126053)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 太平洋横断航路 / ペリー来航 / 石炭 / 開国 / 開港 / 交通革命 |
研究実績の概要 |
ペリー来航時におけるアメリカの対日戦略を再検討した結果、従来の難破船の救助・寄港地の開設、通商の要求はむしろ建前ないし口実としての性格が強く、最大の利害は太平洋横断定期航路を維持するための蒸気船の燃料である石炭にあったことがほぼ確実となった。そのことにより、1848年のカリフォルニア獲得から急速に具体化する太平洋横断航路実現に向けた政策のなかで対日開国要求が政策全体の中でどのような位置づけを与えられるのか、についてもほぼ明らかとなった。東アジアでほぼ唯一安価で大量に石炭を供給できる国は日本しかなく、列強の関心もそこに寄せられていたことも併せて次第に明らかになりつつある。 これに対して、日本(幕府)はどこまで其の本音を理解していたのか、については、開国・開港の過程を明らかにするうえで、幕府だけでなく、佐賀藩、薩摩藩などの雄藩の状況を調査するべきであることが課題として明らかになった。そこで、日本側の状況を明確にすることを第一の課題とし、長崎県立歴史文化博物館所蔵の高島炭鉱関係史料、グラバー関係史料を調査したところ、多くの関係資料が所蔵されていることが明らかとなった。これらの資料と佐賀県立図書館で公開されている佐賀藩資料との照合が必要となり、来年度の課題が一つ具体化した。また薩摩藩については、黎明館に所蔵される薩摩藩関係史料を閲覧したが、量が膨大であり、また史料情報が不足しているため、丁寧な調査が必要となり、時間的にかなりの困難を伴うことが判明したが、館の都合で本格的な調査は慎重に実施することとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの幕末貿易史の研究において、石炭輸出については、その貿易額の相対的な少なさからあまり注目されてこなかった。しかし、今回アメリカの議会・外交文書の分析から、アメリカの対日戦略における石炭の位置づけが明確になったことは、ペリー来航・開国に関する従来の理解を大きく変更させるものであり、また19世紀中葉における交通革命における日本の役割の重要性を世界のグローバル化のなかで明らかにしえたことは、大きな成果であったと評価できよう。 この点については、列強と幕府との交渉だけでなく、西南雄藩の動向も明らかにする必要があることも判明し、新たな課題として位置づけるべきことが明確となった点も、研究の進捗の上で、重要な論点の浮上として評価できる。 国内の資料状況についても、大きく変化しており、新資料の発見もあるなど、現地調査の成果も研究の進展の上で、重要であった。
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今後の研究の推進方策 |
アメリカの対日開国政策における石炭の重要性については、明確となったが、他の列強においても、対東アジア遠洋定期航路の維持・拡大において日本の石炭が必須である事情は同様であり、対日通商の開始において、アメリカを含む西洋列強がどのような石炭確保政策を展開したのか、を明らかにすることは次の大きな課題となる。 そのためには、最大の海運国であるイギリスの政策の実態を解明することが、第一の課外となるであろう。 また、石炭の外国船への供給は、輸出だけでなく、日本の開港場(横浜・長崎など)においても行われており、これは輸出量に匹敵するものであったことも判明した。そこで、幕末の開港場における石炭の供給システムとその販売状況を解明することも、重要な課題として浮上してきた。そこでまずは横浜における石炭供給の実態を、産地からの物流を含めて明らかにするとともに、開港場においてどのような取引形態で石炭が供給されていたのか、を日本側の資料および英米の外交史料を利用して、解明を進めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
図書資料購入の必要から物品費が予定より多額に上り、また調査先として予定していたイギリスでの調査が都合で実施できなかったことから、経費の項目が予定と異なり、計算に誤差が生じたため、端額の未使用額が生じたものであると考えられる。
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次年度使用額の使用計画 |
図書資料・物品購入はほぼ終えたので、次年度は国内資料調査・収集・整理を中心に作業を進めるとともに、項目に沿った予算執行と端数の処理を心掛けたい。
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