最終年度は、以下の調査を実施した。 1.神戸開港文書(神戸大学附属図書館デジタルライブラリー)の史料調査の成果を、論文「明治初年の神戸における外国人妾について―「つる一件」から」にまとめた 。当該論文では、兵庫(神戸)開港後、神戸・福原遊廓の元遊女で、外国人妾となった元遊女「つる」をめぐって生じた争論に関する一件史料を取り上げ、近世・近代移行期の性売買や身売り、人主・遊廓・清国人といった遊女をめぐる人びとの相互関係などを分析した。その結果、従来ほとんどあきらかでなかった外国人妾の実態を解明する手掛かりを得るとともに、遊女をとりまく社会関係とそれが遊女にとってどのような意味をもっていたのかという視角で、明治5年(1872)の芸娼妓解放令の歴史的位置づけについてもあらためて検討するべきことが明らかとなった。 2.娼妓・芸妓の性と生および近代のセクシュアリティに関する先行研究を整理し、娼妓・芸妓の性と生を課題とするさい問題視角をブラッシュアップする作業をおこなった。その一環として関連著作を書評し、書評論文2本(書評 書評 金富子・金栄著『植民地遊廓――日本の軍隊と朝鮮半島』、書評 吉見義明著『買春する帝国――日本軍「慰安婦」問題の基底』)を発表した。 3.前年度に引続き、近畿大学図書館所蔵「金沢遊郭芸娼妓関係文書」の調査をおこなった。史料整理と翻刻をすすめ、調査の中間報告として、「身売りを斡旋した人びと―『芸娼妓紹介簿』にみる」(2019年7月3日、バウラックセミナー)、「金沢の芸娼妓紹介業と娼妓」(周縁的社会集団と近代―日本と欧米におけるアジア史研究の架橋 第20回セミナー、2019年10月25日)で口頭発表をおこなった。
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